水面からしなやかに伸びる手足、そして水中での逆立ちや高いジャンプ。安部篤史(32)は日本男子シンクロ界の紛れもない“エース”だ。

 日本水泳連盟は昨年末、「世界選手権シンクロナイズド・スイミング男女ミックスデュエット」に代表を派遣するため2月に選考会をすると発表した。国内での男子の募集は初で、それに応募した。

「本格的な競技会に出たいという夢をかなえるチャンス。代表に選ばれたい。これまで支えてくれた先生や家族や仲間に恩返しができていないので挑戦する姿を見せたいんです」

 中学時代は競泳選手で全国大会のメドレーリレーで4位入賞した。その後伸び悩み、高校3年で引退。大学1年だった2001年公開の映画「ウォーターボーイズ」を見て男子シンクロに魅了され、翌年、水中パフォーマンス集団「トゥリトネス」へ入団した。当時は劣等生。

「自分をアピールしないといけないのに自己表現が苦手。オーディションはパスしたものの、稽古では恥ずかしくて何にもできないほど内向的でした」

 03年にドラマ「WATER BOYS」に出演し、04年の続編では演技指導を担当した。

「基本的には一人で泳ぐ競泳に対し、ウォーターボーイズは誰が欠けても成り立たず、皆で一から作り上げるのが面白い。表現も動きも『もっと上へ』と思えば終わりがない」

 水中パフォーマンスの世界で12年。国際大会で優勝しながら、普段は水深が浅い市民プールで練習し、水泳教室などで子どもたちを指導して生計を立てる。

「男子シンクロ界がプラスの方向へ変わってきているのに、競技としては浸透していない。もっと多くの人に知られ、身近に感じてもらえる懸け橋になりたい」

 選考会では名曲「オペラ座の怪人」に演技をのせて勝負に挑む。夢の追求は始まったばかりだ。

週刊朝日  2015年1月23日号