ジャーナリストの田原総一朗氏は、安倍首相が争点のない解散・総選挙を決行する理由についてこう語る。
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安倍晋三首相は11月21日に衆院を解散し、12月2日に衆院選の公示、14日に投開票と決めた。
だが、この衆院解散には反対意見が多い。たとえば朝日新聞の世論調査では62%が、共同通信の調査では63%が、そして安倍政権を強く支持している産経新聞の調査でも72%が反対している。
私は、国民一般の反応としてタクシー運転手の意見を手がかりにしているのだが、今回8人に問うたところ6人が反対、というよりも強い不快感を示した。怒っているのである。
安倍首相は、新聞やテレビのインタビューで「国民生活に密接にかかわる税制で、2年前の総選挙では公約にかかげていない重大決断(2%の消費増税を18カ月延期)をした以上、国民に信を問う(選挙をする)べきだと判断した」と答えているが、実は消費増税の延期に反対する野党は一党もない。反対する党があれば、「国民に信を問う」という言葉にもリアリティーがあるが、これではまるで争点にならない。600億円という選挙費用はムダ遣いということになるのではないか。現に、野党はいずれも「大義なき選挙」だと強調している。つまり選挙費用はムダ遣いだと言っているのである。
それでは、安倍首相はなぜいま総選挙を敢行するのか。
10月には、日経平均株価が1万5千円を割っていた。つまり、この時点でアベノミクスは腰折れしていたわけだ。4~6月のGDPは年率でマイナス7.3%に落ち、7~9月もマイナス1.6%になった。そこで日銀の黒田東彦総裁は、10月31日に急きょ30兆円という追加の金融緩和を行った。その結果、日経平均株価は一気に1万7千円台にはね上がった。
だが、安倍首相も自民党の幹部たちも、この高株価が長続きするとは考えていないはずである。景気が良くなっての株高ではないからだ。そこで、高株価の間に解散・総選挙を敢行することにしたのではないか。
それともう一つ。衆院の任期は4年で、まだ半分にしか達していない。だから、どの野党もこんな時期に選挙があるとは考えていなくて、選挙態勢がまるでできていない。だからこそ、そこを狙っての解散・総選挙なのだと事情通たちは話している。
それにしても、冒頭で記したとおり、国民の多くが、この「大義なき解散・総選挙」を不快に感じている。だが、安倍首相のやり方を不快に感じながら、それではどの党に投票すれば良いのか、と国民の多くが思い悩んでいるのである。
アベノミクスは成功していると安倍首相は強調するが、日経新聞の調査では、国民の75%が景気回復を実感していないし、実質賃金は下がっている。だから、いずれの野党も、アベノミクスは失敗だと決めつけ、激しい批判を浴びせている。
だが、いまやほとんどの国民が、そうした批判に耳を傾けている余裕は持っていないのである。求めているのは批判ではなく、対案である。
たとえば民主党ならば海江田ミクスを具体的に示し、どうやって景気をよくし、国民に豊かさを実感させるのか、わかりやすく説くべきである。維新の党ならば橋下ミクスなり江田ミクスを、次世代の党ならば平沼ミクス、共産党なら志位ミクスを具体的に示してほしい。繰り返し記すが、いまや国民のほとんどに、単なる批判に耳を傾けている余裕はないのである。
※ 週刊朝日 2014年12月12日号