相続財産としてもっとも問題が多いのは、自宅などの不動産である。住み慣れたわが家ではあるものの、現金のように分けるわけにもいかない点が、トラブルの大きな原因になる。
「子どもが3人いた場合、預貯金なら3等分すればいいだけ。それに比べて、実家の土地と建物は分けようがありません。それでも、たとえば東京都世田谷区の一戸建て50坪程度の家なら、推定評価額1億円以上ということもあるでしょう。誰か1人が相続すると不公平感が大きい。やむを得ず、子ども3人の共有名義、といった解決法でお茶を濁すことも多いのです」(東京弁護士法律事務所代表の長谷川裕雅さん)
「自宅の相続はもっともトラブルのもとになります。とりあえず、共有名義にして、その後、いざ売却しようとか、壊してアパートを建てようとしても、いちいち全員の合意が必要で、意見がまとまらず、もめてばかりいることになります」
と、相続税に詳しい、アールパートナーズ代表で公認会計士の平林亮子さんもため息をつく。
そもそも相続税を計算する際の土地・建物の評価は、土地の場合は路線価(ない場合は倍率方式)、建物は固定資産税評価額とされており、特に土地の計算は複雑だ。
路線価は毎年7月に公表されているが、2014年の価格は都市部で多少上昇しているため、15年の相続増税で新たに相続税がかかってしまう人が増えそうだ。
では、どんな不動産が相続税の対象となるのか、具体的に考えてみよう。
たとえば、東京都内で路線価は35万円/平方メートルとしよう。200平方メートル(約60坪)の家だと7千万円の評価額になる。15年から基礎控除は大幅に縮小される。妻と子ども2人の場合、8千万円が4800万円になってしまうので、14年なら非課税だったが、15年以降では相続税が発生してしまうことがわかるだろう。
では自宅を残したい場合に有効な相続税対策には、どんな方法があるのだろうか。
「自宅をそのまま残したい場合、もっとも有効なのは『小規模宅地等の特例=8割減特例』を利用する方法。適用されれば、自宅の土地の評価額が最大で8割、減らせることになります」
と、長谷川さんはズバリ有効な対策法としてすすめる。先ほどの評価額7千万円の自宅の場合も、8割減特例を使えば、330平方メートル(14年中は240平方メートル)までの広さなので、評価額を80%分減らすことができるのだ。
つまり、7千万円の評価額の自宅は、1400万円の評価に減ることになる。まるで魔法のようだが、これなら相続税がかからないことになるわけだ。
この「小規模宅地等の特例」を利用するには以下の条件をクリアする必要がある。[1]親(被相続人)の住んでいた土地である。[2]土地を相続するのが配偶者または同居の親族である。[3][2]がいなくて同居していなかった親族が相続する場合は、過去3年間持ち家に住んでいない、の主に3点だ。
夫が亡くなって妻が自宅を相続するぶんには、8割減特例は文句なく受けられる。対策といったものも必要ない。
しかし、のちに妻が亡くなると、その際に子どもの誰かが同居していないと、8割減の特例を受けられなくなる可能性がある。同居していなくとも、持ち家がなく相続前の3年間賃貸に住んでいれば特例は受けられるが、売却したりすると特例の対象外になってしまう。
※週刊朝日 2014年12月5日号より抜粋