海上自衛隊の護衛艦「ゆうだち」が1月30日、東シナ海で中国海軍のフリゲート艦から火器管制レーダーを照射された。中国がこれを「捏造(ねつぞう)」と全面否定したことを受け、小野寺五典防衛相は映像記録など証拠データの一部開示を検討する方針を表明している。

 それにしても不気味なのは、真意が読めない中国海軍の動きだ。中国海軍のフリゲート艦が「ゆうだち」に照射したレーダーは、艦艇が攻撃直前に目標の位置や速度を知るために使用するもの。軍事ジャーナリストの神浦元彰氏がこう語る。

「いわば、撃鉄を起こした銃を至近距離で向けられ続けるイメージ。軍事行動に準ずるもので、常識では起こりえない事件です」

 その時、両艦の距離はわずか約3キロ。もし発砲されたら、回避は間に合わない。大きな警告音が鳴り響く中、「ロックオン」状態は数分間続いたという。

「レーダーの照射を感知すると、艦長は艦内に『警戒態勢をとれ』と一斉命令を出します。艦内は緊迫した空気に包まれる。次は回避行動。速度を上げたり舵を切るなどして、相手側の電波を振り切るような動きをします」(元自衛艦隊司令官の山崎眞氏)

「専守防衛」の自衛隊ならではの制約も多い。元海上幕僚長の古庄幸一氏が言う。「国際的な常識では、状況次第ではこちらから先に攻撃することもあるでしょう。しかし、自衛隊には回避しか選択肢がない。仮に相手が発砲してきた場合は艦長の判断で反撃しますが、現行法では自分の船を守るため、しかも『正当防衛』の範囲でしか許されない。難しい判断を迫られる中、現場はよく冷静に対処したと思います」。

週刊朝日 2013年2月22日号