「検察は裁判で60キロパスカルの水圧で放水したと主張。この数値はシャワーの水圧程度で、とうてい肛門を裂傷させ直腸に多量の水が進入することはない。検察の実験に大いなる疑念をもっていました」
放水実験は有罪立証の重要な柱になる。名古屋地検は検察ストーリーどおり、放水実験に瑕疵(かし)はないことを立証すべく、消防局の署員らに話を聞いた。
中でも、重視されたのが、水圧を計測する役目だったX氏の事情聴取内容だ。河村市長の“ブツ”によると、X氏が当時、上司に検察の取り調べ状況を報告している内部文書にはこう記されていた。
<08年6月21日午前から夕方にかけて事情聴取を実施。VTRを見ながら記憶を辿ってのやりとり。副検事から「こうだから、こうだったんですよね?」という誘導的な聞かれ方があった>
<(消防用ホースからの)圧力が60キロパスカルだったのかは、自分自身の中ではっきりしていない中で、副検事が調書に60キロパスカルと記載することに抵抗があったので、副検事に「数値は記憶があいまいなので記載をやめてほしい」と言った。副検事と数値を事情聴取に載せる、載せないで何度か押し問答になった。副検事はピトーゲージが60キロパスカルを示した拡大写真を見せて「この写真に写っているから60キロパスカルなんですよ」と当方の申し出を拒んだ>
検察ストーリーを押し付けようとする様子が記されていた。
X氏は<放水実験では60キロパスカルという低圧放水なのに、高圧で使用する放水銃を使用するのはおかしい>などの疑問を副検事に訴えていた。
しかし、報告書にはこう記されている。
<「それを言ったら崩れてしまうんですよ」と。言葉を勝手にまとめられてしまった>と検察から不本意な調書にサインをさせられたと訴えているのだ。
そして、X氏はさらにこうも訴えていた。
<聴取内容を消防局へ報告するのは控えてほしいと地検にいわれた>
名古屋市消防局幹部によると、
「十分な記憶がないところも検察の都合のいい調書にされ、サインを強要されたようなものと、Xさんは今も憤慨している。調書を押し付けるわ、配慮はないわと激怒していた」
河村市長はこう訴える。
「客観的にもおかしいことばかりで、事件にワシは今も疑問を持っとる。ブツが真相解明への一歩になることを期待したい」
近く弁護団は、新証拠として問題の文書を再審に向け提出する。
名古屋地検は本誌の取材に対し、「刑事訴訟法第47条の趣旨にのっとり、お答えできません」とコメントを寄せている。
(今西憲之)
※週刊朝日 2014年10月24日号