リーグ優勝を決めた巨人。東尾修元監督は今年の巨人にスキがないと称賛する一方で、闘うならば狙い目は阿部慎之助だと分析する。

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 巨人がリーグ3連覇を達成した。野手は規定打席に達して打率3割を超えた選手はいない。投手も10勝投手は菅野と杉内だけかな。山口、マシソンの救援陣も盤石ではなかった。1人に頼るのでなく、全員の力を信じてタクトを振るった原辰徳監督の功績は大きいよ。

 そして、選手も腐らずによくついていった。多少打てなくて打順を下位に落とされたら、精神面に影響があってもおかしくないよ。でも、全員がチームのためにという意識を持って戦った。原監督は「自己犠牲」「団結力」と話したが、これが巨人の伝統の力、原監督の求心力ということなのだろうな。

 チーム力にはスキがない。今季は接戦に対する自信もあるだろうし、誰かが打てなくてもカバーする戦いをしてきたからだ。ワンマンチームならその軸さえつぶせばいい。しかし、他球団からすれば明確な弱点を見いだすことは難しいはずだ。逆に自軍がスキを見せれば、一気にそこを突かれてしまう。巨人がクライマックスシリーズ、日本シリーズでも中心となるのは揺るがないだろう。

 私が相手チームの監督ならば、どう対するか。阿部慎之助を狙うだろうな。まず打撃でしっかりと抑え込むこと。シーズン中はチームに迷惑をかけたという意識が阿部には強いだろうから、勢いを止めれば、阿部の心理にも変化が出るだろう。そして、捕手の阿部には足でプレッシャーをかけることだ。今季の阿部の盗塁阻止率は2割台と高くない。攻守両面から切り崩していくことになる。

 私が西武の監督を務めた98年の横浜との日本シリーズでは、横浜スタジアムで連敗スタートとなった。正捕手の伊東勤(現ロッテ監督)が2試合とも走られた。打たれて、足を絡められての完敗だった。3戦目からは97年オフにFAオリックスから獲得した中嶋聡に先発マスクを任せた。本拠地で連勝したけれど、結局押し切られてしまった。そんな苦い経験がある。当時、勤は36歳。球界を代表する捕手の代えどころは非常に難しかった。

 阿部が狙われた場合、原監督の決断も重要になる。シーズン中は阿部を一塁に回している間に、ルーキーの小林誠司を起用した。ただ、シーズンと短期決戦では、まるっきり違う。経験値の差はどうしても出る。私の場合、中嶋も経験豊富な捕手だった。当時の私より難しい決断が迫られる。

 決断には、長期的なビジョンも加味されるべきだろう。私が現役時代、巨人と戦った83年の日本シリーズで、捕手交代の過渡期を、投手として経験した。

 このシリーズでは、第4戦からプロ2年目の勤がマスクをかぶった。第7戦。リリーフに回っていた私は、3?2と逆転した後に、捕手を勤から大石友好に代えてもらうよう、広岡達朗監督にお願いした。勤が駄目とかではなく、大石のほうが私のことを熟知していたから。しかし、広岡監督は首を縦に振らなかったな。将来的に勤を中心に戦うという明確なビジョンがあったからだと思う。

 阿部も35歳になった。原監督は小林への移行のタイミングも計っていることと思う。巨人は球団創設80周年。日本一奪回を成し遂げなければならない。その使命も抱えた中で、阿部と小林をどう見極めるのか。10月の決戦の焦点として、注目していきたい。

週刊朝日 2014年10月17日号

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