夫「でもね、退院するまでわからなかったですよ。本当の深刻さは」
夫は左半身に麻痺が残り、当初は車いすにまっすぐ座ることもできなかった。それでも半年間のリハビリを経て、自宅療養が始まる。
妻「ちょうど『野ブタ。をプロデュース』の仕事が始まったとき。トムちゃんは自分が何もできないことにすごく矛盾を抱えて、それでけいれんを起こして、救急車で運ばれたりしたね」
夫「この人を解放してあげたい、介護から自由にさせてあげたい。それを突き詰めていくと結局、パートナーとしての解消を考えなければならないという矛盾ですよ。サルトルで言うと『出口なし』。俺は『袋小路』って名付けてるけど」
妻「アハハ、どっちでもいいよ。この人、『夫婦は家族ではない』って言い張るんですよ。じゃあ何?って聞いたら『奴隷』って(笑)」
夫「そういうことになってしまうやん。それがいややねん。世話になっているということをずっと抱えてるから、自分に頭くる」
妻「でもすごい受け入れてるよ、トムちゃんは。偉いと思うよ」
夫「でもやっぱり自分の自由がきかないのは……」
妻「うん、いやだよね、やっぱり」
夫の状態に改善の兆しが見えてくると、今度は妻の番だった。
妻「なんとか『野ブタ。』も無事終わって、DVDが5万セットも売れたんですよ。次の『セクシーボイスアンドロボ』もすごく期待されて。ちょうど倒れてから3年で、この人もだいぶよくなってきてた。でもね、そしたら今度は私がうつ病になって、涙がとまんなくなっちゃった」
夫「突っ張ってたものがポキッと折れたんやな」
妻「散歩に行ってタンポポが踏みつぶされるのを見て『私のせいだ~!』って泣くんですよ。因果関係がバラバラになってて。完全にうつ病です。幸い薬を飲んだら劇的に効いたんですけど、時々ぶわっとくる。泣くと体力がいるから、書けなくなっちゃう。ちょっと収まるまで待とう、みたいにして、でも最終的に『セクロボ』終わらせたもんね。トムちゃんもアイデアいっぱい出してくれたし、それまでショートステイなんて行ったことなかったのに1カ月くらい行ってくれて。それでその後の『Q10』も書けたんです」
※ 週刊朝日 2014年10月10日号より抜粋
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