東京オリンピックの年に開業し、10月1日に50周年を迎える東海道新幹線。その最新車両N700Aの製造現場に潜入し、さらに“頭脳”とも呼べる新幹線総合指令所に足を踏み入れた。
東京ドーム5個分の広大な敷地に立つ巨大な七つの工場と約30もの建物群。その一つに足を踏み入れると、アルミ合金の巨大な車体の存在感に圧倒された。
ここは日本車両豊川製作所(愛知県豊川市)。創業118年を数える、鉄道車両製造の老舗だ。初代新幹線0系から最新鋭のN700A、山陽、東北新幹線の車両など、同社による新幹線の総製作車両数は3460両(2014年8月31日現在)。名実ともに50年間の新幹線の歴史を支えてきた。
ここで造られているのは新幹線車両だけではない。そのため、N700Aの隣で名鉄や東京メトロなどの車両を造っているというのも日常の風景だ。
16両編成のN700Aを完成させるのに5~6カ月かかる。
車両工場というと、高度に機械化されたラインを連想しがちだが、新幹線のそれは驚くほど手作業が多い。溶接や研磨、無数にある機器の設置、工程ごとの寸法確認など、熟練の技術者たちが、まるでオーダーメードのように丁寧に造り込んでいく。
「手作りではあるものの、規格通り造るノウハウがあります」
そう語るのは同社鉄道車両本部製造部の田山稔部長(52)。1985年の入社時に造られていたのが0系だった。以後、鉄道車両製造を見つめ続けてきた。
「日本車両では0系の試験車両から関わっており、新幹線は世界で一番という自負があります。開業から大きなトラブルがないのは先人の努力あってのこと。50年は一つの節目。我々の代で事故を起こすわけにはいかない。これからも事故のない車両を造り続けるのみです」
1日42万人、累計56億人もの旅客を輸送、ピーク時には山手線並みの約3分間隔で発車する東海道新幹線。それでいて50年間、衝突や脱線などによる死亡事故ゼロ、平均遅延時間は0.9分を誇る(平成25年度の運行1列車あたり)。
この極めて正確で安全な運行を24時間態勢で監視・制御しているのが「新幹線総合指令所」だ。セキュリティー上、具体的な場所は秘密だ。
指令所の正面に設置された巨大な総合表示盤は、向かって左端の基点が東京駅で、左半分に東海道新幹線、右半分に山陽新幹線の路線図が表示されている。
平常時の指令所内は静寂そのもの。しかし、災害や事故などが発生した時は状況が一変。的確な指示を瞬時に下していく。
「指令業務は“安全”が最優先。経験が一番モノを言う」
指令担当課長の加藤芳伸さん(58)はそう語る。50年間で指令所も進化した。列車本数の増加や運行の複雑化に対応できるシステムを導入し、膨大なデータが集約されるようになったが、「人と人とのコミュニケーションが大切」と加藤さん。
総合表示盤に目を向けると、液晶画面の山陽新幹線とは対照的に、東海道新幹線は緑がかった黒板で、どこかアナログ的だ。
「緊急時は、ここに直接書き込んだり、メモを貼ったりするほうが早いんです」
新幹線の安全性と正確性は、人によって支えられている。
※週刊朝日 2014年10月3日号