映画「アウトブレイク」を彷彿させる事態が起こっている。エボラ出血熱の感染が西アフリカで拡大。死者はギニア、リベリアなど4カ国で1069人となった(8月11日現在)。最大で致死率9割ともいわれる脅威のウイルスは、果たして日本に入ってくる危険性はあるのか──。
日本国内にはウイルスを取り扱える設備を持つ研究施設がないため、治療薬の開発はできない。
今年3月、日本の科学者からなる日本学術会議・総合微生物科学分科会が、「我が国のバイオセーフティレベル4施設の必要性について」の提言を出した。バイオセーフティレベル4施設とは、病原性の強い細菌やウイルスを扱う施設のこと。同会員の柳(やなぎ)雄介氏(九州大学大学院教授)は言う。
「治療法の開発に限りません。現状では我が国でもエボラ出血熱の診断は可能ですが、ウイルスを実際に調べて確定診断することはできないのです。他の先進国のように、こうした施設ができることを望みます」
エボラ出血熱は日本で感染が拡大する危険性はないのか。1カ月間、リベリアで感染防止活動を行った日赤和歌山医療センター感染症内科部副部長、古宮伸洋医師は言う。
「潜伏期間が長く、その間は無症状なので、ウイルスを持った感染者は自由に移動できる。感染者が渡航先で発症する可能性は否定できません。ただ、空気感染は起こらないので、機内で感染者が増えることはなく、その感染者を隔離すれば、それ以上ウイルスが広がることはありません」
厚生労働省は「空港の検疫所では、サーモグラフィーやスタッフの声かけなどで対応している」(医薬食品局検疫所業務管理室)という。症状がある人は空港内の健康相談室で確認し、感染が疑われる場合は、第一種感染症指定医療機関(全国44施設)へと搬送される。同医療機関には、空気が外部に漏れないよう管理できる隔離病床があり、感染症治療の訓練を受けたスタッフがいる。強い病原性を持ったウイルスや細菌(エボラ出血熱やSARSなど)の感染に対応できるようになっている。
日本は西アフリカなどと比べて最先端の医療環境が整い、下水道が完備されるなど衛生環境もよい。集団感染のリスクは極めて低いという見方が多い。
「現地では間違った知識が横行し、それが結果的に感染拡大をもたらした。日本人もむやみに怖がるのではなく、正しく理解をしてほしい」(古宮医師)
※週刊朝日 2014年8月29日号より抜粋