愛飲家にとって、飲酒と認知症の関係は気になるところだ。杏林大学医学部(東京都三鷹市)高齢医学の松井敏史准教授に尋ねた。
「アルコール依存症患者や大量に飲酒する習慣がある人には、脳の萎縮や脳血管障害が高い割合で起こり、認知機能の低下がみられます。大量の飲酒は、認知症の発症リスクを高める可能性があるといえます」
松井准教授によると、アルコールには脱水作用があり、これで血液中の水分が奪われると、血管が詰まり脳梗塞などを発症。血管性認知症の原因になるという。
約1800人の高齢者を対象にしたアメリカの住民調査では、長期の飲酒で累積の量が増えるほど、脳が萎縮していることが判明した。アルコールを分解するときにビタミンB1が大量に消費され、脳の神経細胞が破壊されるなどして、萎縮が進むもので、アルコール関連認知症の原因となる。
だが、悪影響を与えるだけではない。少量のアルコールは認知症のリスクを低減するという研究もあると、松井准教授は言う。
「1日あたりアルコール10グラム程度の飲酒は、認知症のリスクを低減させる効果があることが報告されています。ビールなら250ミリリットル、日本酒なら0.5合です」
この研究はアメリカに住む約5900人の高齢者を対象に、平均6年間追跡したものだ。飲酒をしない人の認知症発症リスクを1としたとき、1日あたりアルコール10グラムの飲酒で認知症になるリスクは0.5程度。つまり、まったく飲まない人の半分程度にリスクが下がっていた。
少量の飲酒はなぜいいのか。松井准教授は解説する。
「アルコールには、善玉コレステロールを増やしたり、血管を拡張したり、血液をサラサラにしたりする働きがあります。少量だとこれらが効果的に作用するのではないでしょうか」
もちろん、お酒に弱い人が無理に飲む必要はない。また、アルコールが1日20グラムを超えると、リスクは急増していくこともわかった。
「1日に飲んでいいのはビール500ミリリットルまでです。それ以上だとリスクが急激に上がります。十分な栄養をとりつつ、楽しくお酒と付き合ってください」(松井准教授)
※週刊朝日 2014年8月22日号より抜粋