明治から昭和の混乱期に活躍した、『赤毛のアン』の翻訳者・村岡花子の半生をもとにしたNHK連続テレビ小説「花子とアン」(月~土、朝8時~ほか)。番組開始以来、20%台の高視聴率をキープし、7月5日放送の視聴率は25.9%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と番組最高を記録した。
なんでこんなに人気なのだろうか?
「吉高由里子さん扮する花子は、ドジでおっちょこちょいで失敗を繰り返しても、いつも前向き。当時の日本女性には珍しいキャリアウーマンで、一生懸命勉強して英語を身につけた姿に共感する人が多いのでは」
こう分析するのは、コラムニストのペリー荻野さん。
放送開始後、「花子の実家、小作農家の安東家のド貧乏ぶりが『おしん』を彷彿(ほうふつ)させる」と、朝から中高年の涙を誘う。「女学校時代」が放送されるとバラエティー番組で女子校特集が組まれた。ちょうど今は、花子の親友・葉山蓮子(仲間由紀恵)と、筑豊の石炭王・嘉納伝助(吉田鋼太郎)のモデルが住んだ家が観光スポットになっているように、話題は尽きない。
そして物語は、今や回を追うごとに花子と蓮子のラブストーリー、“恋バナ”が中心になっている。
「最近、民放で放映されているドラマは、警察や病院をテーマにしたものが多く一話完結。ラブストーリーが見たいという人には15分で終わる朝ドラがちょうどいい。翌日が待ち遠しい、という声をよく聞きます」(ペリーさん)
「花子は村岡に妻がいたことを後に知り傷つく。蓮子の場合、政略結婚だったので自分が望んだ相手ではありませんでした。帝大生の宮本と出会い、舞台の脚本の執筆を通じて、恋に落ちます。人妻でも蓮子にとっては初恋なんです」(カトリーヌさん)
メールもスマホもない時代。会いたい時には手紙に想(おも)いを託すしかない。宮本から届いた手紙を読んだ蓮子はいたたまれなくなって上京する。一直線に相手を想う姿に共感して、いつの間にか、中高年の多くの視聴者が二人の恋の行方にくぎづけになった。つまり“萌える”というのだ。
高視聴率をマークした7月5日は、村岡に妻がいたことに失意を抱いた花子が実家の甲府に戻る。雨の中、教会の図書室から、村岡にもらった辞書を投げようとする時、幼なじみの木場朝市(窪田正孝)が引き留める──。不倫といえども、激しいラブシーンや修羅場はない。雨の中、村岡が花子に傘をさしかけて抱きしめた程度。その時の傘を見ると村岡を思い出す、という具合に一事が万事、純愛なのだ。
「さわやかに描かれているので後味もすっきりする。美輪明宏さんの『ごきげんよう、さようなら』の一言でドラマが終わると、すんなり現実の世界に戻れます」(ペリーさん)
※週刊朝日 2014年7月25日号より抜粋