現時点でMERSは、同じコロナウイルスによるSARSのような爆発的な感染力は持っていないとされる。人から人への感染は、家族や医療従事者ら、濃厚な接触をしたケースしか、まだ確認されていない。
では、どうやって感染が広がったのか。はっきりとはわかっていなかったが、最近の研究で、ヒトコブラクダがウイルスを媒介していることが判明した。MERSウイルスの感染者とヒトコブラクダから採取されたコロナウイルスを比べると、遺伝子の形が一致したのだという。
中東では、ラクダは生活に欠かせない動物だ。移動手段としてラクダに乗り、家畜として肉を食べ、生乳を飲む。さらに、子供向けのペットとして飼うケースもあるという。中東でラクダの持っていたウイルスが人間に感染する能力を獲得し、世界に広がっていると考えられる。
中東の感染地域には、ドバイ(アラブ首長国連邦)やドーハ(カタール)など、ラクダに乗るツアーやラクダレースなどがウリになっている観光地もある。海外旅行者が増えるこの夏にも、日本にMERSが上陸する危険性があるのだ。
国立感染症研究所・ウイルス第三部四室の松山州徳(しゅうとく)室長は、こう解説する。
「コロナウイルスは、インフルエンザウイルスのように非常に変異しやすい。MERSウイルスは、ラクダのウイルスが人間に感染するようになったと考えられます。MERSウイルスに感染した人は、主に都市部の病院で見つかっています。大都市だから安全とはいえません。現地の病院を受診された方は注意が必要でしょう」
※週刊朝日 2014年7月18日号より抜粋