その昔、寺を参拝した人が写経を収めた証しとしてもらった「御朱印」を集める人が現代ニッポンで増えているという。

 東京都に住む自営業女性(41)が、御朱印集めにはまったきっかけは“失恋”だった。

「5年前、恋人と別れた私のひどい落ち込みようを友人が心配し、『悪運ばらいに』と伊勢に誘ってくれたんです」

 その際に訪ねた伊勢神宮でもらって以来、旅先で神社や寺にお参りするたびに集めるようになった。

「眺めているだけで『守られている』と思えます」

 御朱印は通常、手のひらサイズに寺社の名前と日付などが毛筆で書かれ、朱色の印が押されたもの。

 フランス郷土料理店を経営する嶋啓祐さん(51)は5年前から「御朱印の会」を主宰。メンバーは男女約20人で、集めた御朱印を披露したり、一緒に神社や仏閣へもらいに行ったり、画廊で展覧会を開いたこともある。趣味で古事記や神社を研究してきたが、5年前、友人と訪れた千葉の神社で最初にもらい、魅せられた。すでに500ほど収集済みだ。

「毛筆で墨書きされた一つひとつの表現は、見れば見るほど感慨がわく。メンバーの動機はさまざまで、病回復や縁結びを願う信心のほか、『スタンプラリーみたいで楽しい』『アートとして美しい』との声もあり、観光の記念に気軽な感じでもらう人もいます」

 御朱印はこれまでも静かに支持されてきたが、ここにきて、若い女性に人気のパワースポット巡りとも連動して「御朱印ガール」なる愛好者が登場するほど盛り上がっている。伊勢、京都、鎌倉などの観光地ごとに集めたり、「縁結び」「商売繁盛」といった目的別でくくったり。

 ブームが熱を帯びてきた一因とされるのが、昨年の伊勢神宮と出雲大社のダブル遷宮。阪急交通社によると、2013年4~12月の伊勢神宮ツアー参加者は前年同時期に比べて日帰りで4.9倍、宿泊で2.4倍に増えたそう。

「観光で有名な神社に訪れて御朱印を集め始める。そのうち自分なりの集め方を見つけて楽しみを広げていくようです」(嶋さん)

週刊朝日  2014年4月11日号