作品が次々に映像化され、話題になることが多い、作家の湊かなえさん。が、本人は、「小説が一番面白い、これは映像化できないぞ、と思ってもらえるようなものを書きたいと、いつも考えています」と話す。
小説『白ゆき姫殺人事件』には、ある殺人事件をめぐって、第三者が無責任に呟くツイッターの描写が効果的に挿入されている。映画化にあたり湊さんが気になったのも、ツイッターの文字情報をどう処理するのか、だった。
「でも企画の段階で、中村義洋監督が作った10分弱の映像を見せていただいて、それが私の想像を遥かに超えて、すごく面白かったんです。もともとこの小説は、『もし自分が事件に巻き込まれたとき、周りの人たちから何と言われるだろう?』『周りの人の証言によって、自分の知らない自分が見えてくることがあるかもしれない』と考えたことがきっかけで書き始めたんです。完成された映画では、井上真央さんが、同僚や家族や同級生、それぞれの人たちから見た“城野美姫”像を表情から走り方まで細かく演じ分けていて、映像で心をグッとつかまれました」
小説を書くときは、いつも自分が、“知りたい”“深く考えたい”と思うことをテーマにするという。では、小説を書く意義はどうだろう。発信する側として、小説が果たすべき役割のようなものを考えることがあるのだろうか。
「それは私、一言で言えますよ“想像力”です。物語に触れて、疑似体験をして、“想像する”ことを思い出してほしいんです。手紙だったら、ポストに持っていく間に、書いた内容のことを反芻したりするけれど、メールだと読み直す間もなく送信してしまうでしょう? 最近は、自分が発した言葉の先に何があるか想像することを、忘れてしまっている気がします。だからせめて、自分が発信した物語が、誰かの想像力の手助けになればいいな、って」
※週刊朝日 2014年4月4日号