フリーの演技を終えて涙を流す浅田真央=川村直子撮影 (c)朝日新聞社 @@写禁
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 真央が泣いた。そして、日本中が泣いた。

「世紀の247秒」を演じきった真央は涙をぬぐうと、すがすがしい表情になった。

「私が目指してきたのは、昨日のような演技ではなくて、今日のような演技。でも、これが自分なんだなと受け止めています」

 2月19日のショートプログラム(SP)はまさに悪夢だった。三つのジャンプはことごとく失敗し、得点は55.51、まさかの16位発進に日本中が落胆した。

 翌20日のフリー。その落胆は、驚嘆に変わった。冒頭の3回転半ジャンプ(トリプルアクセル)を今季初めて成功させると、一部は回転不足を取られたものの、全6種類、計8度の3回転ジャンプを跳びきる。ノーミスで演技を終えた。得点は自己ベストを6.41更新する142.71。フリーでは、優勝したソトニコワ(ロシア)、2位の金妍児(キム・ヨナ=韓国)に次ぐ高得点で10人抜きを果たし、6位に入った。

 想像を絶する重圧の中で披露した集大成の演技と、あの涙。現地で取材をしたスポーツライターの折山淑美さんは、こう振り返る。

「直前の6分間の練習から、前日とは雰囲気がまったく違いました。最初のトリプルアクセルを決めたときは、もう会場全体が大喝采でした。印象的だったのは、佐藤信夫コーチとの間に信頼関係がきちんと育っていたこと。だからSP後に佐藤コーチの方針を受け入れてジャンプを軌道修正できた。さらに佐藤コーチの『何かあったら僕が助けに行く』という言葉が心に響き、気持ちの切り替えにつながったのだと思います」

 スポーツジャーナリストの生島淳さんは「浅田選手の演技がライバルにも影響した」と話す。

「浅田選手が最終組であの演技をしていれば、150点を超えていたと思う。第2組から高い得点は出せないので、どうしても厳しくみられた部分はあったはずです。最終組の点数のインフレは、浅田選手が押し上げたといってもいい。ただ、逆説的ですが、メダル争いのプレッシャーがなかったからこそ、自分の演技に集中できた部分もあると思う。メダルうんぬんでなく、本人が納得の表情で終われたことが、何より感動的でした」

 真央はソチ五輪を集大成と位置付けてはいるが、3月の世界選手権後の試合出場について明言していない。今後について、前出の折山さんはこう語る。

「まだ『決めていない』というのが本音でしょう。試合直後に記者から『4年後の挑戦を想像できるか』と聞かれて『できません』と答えたのを、一部では『引退』と報じられていますが、あの状況で『できる』と言う選手はほとんどいません。17日の記者会見でも『終わってから考えること』としか言っていません」

 真央の未来を決めるのは、真央しかいない。

週刊朝日  2014年3月7日号