文筆家で、女性のセックスグッズショップ代表の北原みのり氏は、先日「戦争反対!」と呼びかける女性の集会でスピーチした。女たちは、何を伝えようとしたのか?
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17年前、セックスグッズを売りはじめた時、私は「女はもっと、楽に生きられるようになる~」と思っていた。が、どうなんだろう。先日、私は「戦争反対! 女性大集合」という、福島みずほさんが主催する集まりに参加し、参議院議員会館でスピーチしたのだった。
こんなこと17年前の私は一ミリたりとも想像しなかったよ。「戦争反対!」なんて集会にバイブ屋が出席? 真剣な顔で「今の世の中、怖いです」と語るなんて、20代の私には想像できない未来だったよ。
首相の靖国参拝に厳しい批判が国際社会から寄せられている。政府は武器輸出三原則を緩和しようとしている。憲法の改正も絵空事じゃなくなっている。特定秘密保護法成立で、気持ち縛られるような気分だし。
集会では落合恵子さんが司会し、音楽評論家の湯川れい子さんや、映画監督の鎌仲ひとみさん、作家の雨宮処凛さん、翻訳家の池田香代子さん等20人近くの女性が次々にスピーチした。この日が誕生日だったという湯川さんの話は印象的だった。戦死されたお兄さんのお話だった。お兄さんは、昭和17年に徴兵される直前まで、アメリカのレコードジャケットを模写していたという。好きなものを封じられ、命を奪われたお兄さん。日記には「いやな世の中になった」という思いが、綴られていたという。
「戦争は急に激しくなるんです。引き返そうと思った時には、戻れない」
私も含め、誰も「今すぐ戦争が始まる」だなんて思っていない。でも、この不穏でとんでもなく怖いものが待ち構えているんじゃないかと、思ってしまう。湯川さんが仰るように「気づいた時は遅い」ならば、予感の段階から騒いでおいた方がいいのかもしれない。
この日、多くの女たちが語り、伝えようとしたこと。日本がこれほど豊かになれたのは、平和だったから。餓死者が珍しくなく、貧困に喘ぐ人が急増する今の日本は、既に平和ではないのだ。憲法改正や靖国参拝などではなく、人々の生活に目を向けるべきだ、と。私も心からそう思う。バイブを握れない時代になるなんて、あり得ないから。
※週刊朝日 2014年2月7日号