約1年9カ月の服役を経て“シャバ”に戻ってきたライブドア元社長の堀江貴文氏。新刊発売のため、書店を営業して回った堀江氏が気づいたベストセラーになる秘訣とは。

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 すでに一部メディアでは話題になっていると思うが、11月5日に私の新刊『ゼロ』が発売される。

 私の主張や考え方などを、これまでに伝えきれていなかった人たちへ向けて書いた本だ。そのためには読者の目線に立って伝える努力をしなければならない。そこで本を読者に届ける最前線にいる書店員さんにまずは理解してもらおうと思ったのだ。そして出版業界としては異例の著者本人が全国の書店を営業して回るという活動を展開することになった。

 札幌、仙台、東京、名古屋、大阪、福岡といった主要都市を中心にして数十店舗を営業して回った。もともと私は営業活動が好きなほうで、上場企業の経営者だった時もロードショーといって全世界の機関投資家に自社の株を買ってもらうための営業なんかを超過密スケジュールの中、行っていたものである。

 今回も分単位で1日10店以上をめぐるというスケジュールをこなしてきた。やはり現場に行かないとわからない出版業界のリアルというものがあるのだ。

 例えば、ベストセラーを生んだ作家さんの多くは地道な営業活動を展開されていて、『永遠の0』や『海賊とよばれた男』の百田尚樹さん、『夢をかなえるゾウ』の水野敬也さん、勝間和代さんなどは私が行った書店のほぼ全てに営業に行ったことがあるらしい。

 売れている作家というのはその背景に地道な努力が隠されているということがわかった。また地方都市に行くと地元で大ベストセラーになっているものの、全国では知られていない本というのもいくつかある。地元密着型の書籍展開も考えなければならないという考えのきっかけにもなった。

 最も私がびっくりしたのは、書店で紙の本を買っている人が意外に多いことである。私はほとんどアマゾンでしか本を買わないが、それは電車にほとんど乗らなかったり、人通りが多い場所に行かなかったりするだけの話で、多くの人は通勤、通学のルート上に大抵は書店があって、そこで本を即購入しているのだ。

 また読書習慣がない人はKindleのような電子書籍リーダもまだ購入していないので、電子書籍よりは紙の本を好むようである。実際、私がこれまで出した新刊も全員がアマゾンなどで買っているわけではなく、リアル書店に足を運んでいるようだ。私の本はネットで話題になって、放っておいてもある一定数は初速で売れるので、「あまり場所をとって販促しない」なんて言う書店さんもあった。大事なのは配本されたら即並べることなのだそうだ。

 つまり利便性の高い場所にある大型書店の売り上げは当面堅調なはずで、そのかわりテレビドラマ視聴率がソーシャルメディア効果で一部の優良作品に集中するように、書籍も話題になった一部の書籍に売り上げが集中していくことになるだろう。

 ニッチなあまり売れない作品のほうが、まずウェブのほうにどんどん移行していくという傾向になるのではないか。Kindleの100円本なんか、まさにそれを象徴している。

週刊朝日 2013年11月8日号