性犯罪被害は、世界で社会問題となっている。なぜ、性犯罪が起きてしまうのか。被害をなくすために、できることとは? コラムニストの北原みのり氏が、連載「ニッポンスッポンポン」で考察する。

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 元警察官で、今は京都大学でジェンダー研究をされている牧野雅子さんが書かれた『刑事司法とジェンダー』という本が、めっちゃくちゃ面白い。

 本書のきっかけは、警察学校時代に同期だった男性警察官が連続レイプ事件を起こしたこと。牧野さんは、裁判を傍聴し、加害者と面談や文通を重ねてきた。

 司法の世界では、というか世間では、レイプ犯は異常性欲の持ち主だと考えられている。裁判でも、加害者は性欲に突き動かされた、という物語が作られるのが常だ。

 が、実際には、レイプ犯は用意周到に女性を調べ上げていた。またレイプ犯はゴムを着けないと考える人は多いが、体液を残さないためゴムを使う男は少なくない。またその警察官は、「レイプする」と決めたことを「男らしく完遂する!」という強い意志でレイプを実行していた。さらに犯行時に勃起しない男性は少なくない。勃起させるためフェラチオを強要するケースも多々あるのだ。

 ……という話を私がすると、男性には非常にウケが悪い。「オレがやったわけじゃないし」というのが男性一般の感覚なのだろう。

 
 性犯罪加害者の更生プログラムに関わっている専門家や牧野さん自身にも話を聞くと、性犯罪加害者は、「フツーの男」だという。もてないキモい男はむしろ少なく、イケメン率も低くない。既婚者だったり、恋人のいる男も多いし、地位の高い職業に就いている人も珍しくないのだ。

 もてない男の犯罪、異常性欲者の犯罪、と切り捨てることで、男性や社会が真剣にレイプ犯罪について考えないですんでいるのかもしれない。被害者をなくすためにも、社会がどのように性欲を捉え、どのように女を捉えているのかを、もっと男性自身に考えてほしいです。

「男の性欲」という言葉は、考えてみれば非常に曖昧なんだと思う。なのに、時には女を黙らせ、無理を通すような印籠のような力を持つ。すごく迷惑でした……。もう、「性欲至上主義」やめませんか? 今一度、「性欲」とはなんぞや、みたいなところから考えてみませんか?

週刊朝日 2013年10月18日号