「私も広島市内で見知らぬ人から『おめでとうございます』と挨拶(あいさつ)されました」
こう言って笑うのは、野球解説者の北別府学氏(56)。1976年から94年まで広島カープ一筋で、抜群の制球力から「精密機械」と呼ばれた、通算213勝の大エースだ。
広島は9月25日、中日に勝ってセ・リーグの3位以上を確定させ、初のクライマックスシリーズ(CS)進出を果たした。なにせAクラス入りは16年ぶり。何度もシーズン終盤の大失速でBクラスに甘んじてきた。「優勝じゃないのに」というツッコミもあろうが、それは広島に関してはヤボというものだ。
実は今春、北別府氏は『CARPはなぜCSに出られないのか… 手を伸ばせば、すぐそこに…』というタイトルの本を出版。CS進出をかなえる戦力は十分にあるとつづっていた。苦節16年のリベンジは、特に中継ぎ陣の奮闘と盗塁数の増加が大きかったという。
「走塁には好不調の波がありません。Aクラス入りは、足を使った攻撃が力を発揮したからです」
応援し続けたファンにとっても、悲願だった。
「生まれてからずっとBクラスしか知らないという、若いファンの方々もいます。ファンに最低限のお返しができたのではないでしょうか。呪縛が解けた今、日本一も決して夢物語ではないと思うのですが……」
喜びに浸るカープファンを驚かせたのが、27日の前田智徳外野手(42)の引退発表だった。前田といえば、あのイチローをして「本当の天才は、前田さんですよ」と言わしめたスラッガー。しかし、95年に右アキレス腱(けん)を断裂するなど、故障に悩んだ野球人生でもあった。
北別府氏には前田との忘れ難いエピソードがある。