第9話の平均視聴率35・9%、瞬間最高視聴率40・1%を記録し、9月22日の最終回では日本テレビ系「家政婦のミタ」(最終回40%)超えが、見えてきたTBSドラマ「半沢直樹」。このドラマの仕掛け人は、福澤諭吉の玄孫でもある福澤克雄監督(49)だ。型破りな制作の裏側とは――。
――ここまでのメガヒットは予想しましたか?
思ってもいませんでした。テレビ業界の誰も思ってなかったのではないですか?なぜなら、ドラマとしては馴染みの薄い銀行が舞台ですし、これは映像化しても当たらないとされている分野なんです。僕自身も10話全部を通して平均15%取るぞ、と考えていた。だから、12%くらいでスタートして、最終回は20%近くまでいけたらいいな、と。それが初回いい評価をもらって、すごい自信を持てた。やっぱり間違ってなかったって。だけど、ここまで来ると、何だかよくわからないですよね。もう一回やれと言われたって絶対できないし。何が原因でこんなに当たったのかというのがわからない。
――ドラマのスピーディーな展開もヒットの要因と言われています。
テレビ・コメンテーターの方々が、このドラマが受け入れられている要因をスッキリ感とか爽快感とかとおっしゃられてますが、それだけが要因ではないと思います。正直、僕もわからない。でもあえて言うなら、原作が良かったことと、堺雅人という、野球で言えば阿部慎之助みたいな一流どころを連れてきたということでしょう。あと、開き直ってセオリー無視で作ったことですかね。
――セオリーを無視して作ったというのはどういうことでしょうか。
ドラマを作るときは、恋愛要素を入れなくてはいけないとか、こういう人をキャスティングをしないと視聴率は取れないのだと、いわゆるセオリーを言われるんです。けれど、言われたとおりにやっても、最近は視聴率が取れなくなってきている。ならば、どうせ当たらないというスタンスで、言われていたことを全部無視して、自分が面白いと思うようにやりました。恋愛もないし、主題歌もない。半沢直樹には寝間着を着て、妻や子どもとじゃれるシーンは不要です。スーツを着てひたすら銀行で上司と闘う姿がつまらないと思うんだったら見なくてもいい、というつもりで作ったからよかったんじゃないですか。
――原作は、池井戸潤さんの『オレたちバブル入行組』と『オレたち花のバブル組』ですが、その魅力は?
例えば、僕が手がけたドラマ、「華麗なる一族」なら“父と子”、「砂の器」なら“差別”とか、そのテーマに沿って物語を動かしていくものですが、池井戸先生の原作は、活劇なのです。ただとにかく面白いというところがいい。僕は、黒澤明監督の「用心棒」が好きなのですが、これもテーマがない。ディレクターになってわかったことですけど、「用心棒」のようなテーマのない作品を作るのは、すごく度胸のいることなんですよ。失敗したら言い訳がきかない。なんだ、バカじゃねえのかって言われる作品ですよね。それを堂々と作っていて、しかもやたら面白い。「用心棒」のような、テーマを追わず、とにかくストーリーと面白さだけを追求するような作品をやってみたい、というのが、僕の心の中にあった。
――「半沢直樹」を作るときに、黒澤映画をヒントにしたのでしょうか。
「私は貝になりたい」という映画を監督したときに、脚本が橋本忍先生でしたが、この方は「七人の侍」などの黒澤監督作品をいくつも書いていた。僕なんかガキ扱いされながら、いろいろなことを教わったのだけど、あるとき橋本先生がこう言いました。
「黒澤監督が、なぜあんなに何百回とリハーサルをやるか、わかるか」
「それは役に入らせるためじゃないですか」
「俺もそう思ったんだけどちがうんだ。黒澤さんに聞いたら、『一秒でもいいから役者に早くしゃべらせるためだ』と」
「七人の侍」をよく見たら、しゃべりが早い。三船敏郎さんも何言ってるかわからないくらい、すごく早くしゃべる。とにかく、セリフをより短く、テンポ良くしていく努力をしたのです。ドラマの場合でも、これは参考になりました。
週刊朝日 9月13日号