女性特有のがんにはいろいろな種類があるが、その中には遺伝性のものも含まれる。遺伝性のがんでは、患者自身だけでなく、子どもや孫、きょうだいなどの肉親も同じがんになりやすい遺伝子の異常を受け継いでいることが多い。そのため、患者だけでなく、こうした肉親への通知やケアなども重要だ。医学知識をもとに遺伝やがんのリスクについて説明し、不安や悩みを抱える患者や肉親を支えるのが、遺伝カウンセラーだ。

四国がんセンター家族性腫瘍相談室の金子景香さんは、認定遺伝カウンセラー(日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会が認定する資格)として、昨年から希望者やその家族の遺伝相談にあたっている。

「相談室での遺伝カウンセリングはもちろん、電話での問い合わせにも対応しています。また、病棟をまわって乳がんの患者さんの家族歴を確認し、遺伝性のがんが疑われるときは担当医に伝えます。遺伝の話は複雑で、誤解を伴いやすいので、できる限り丁寧に説明するよう心がけています」

 同センターでの遺伝カウンセリングは、今のところ年間20数件ほどだ。だが、今年5月、アンジェリーナ・ジョリーが乳房の予防的切除を公表してから、問い合わせは増えている。

「3年前の遺伝カウンセリングを受けて検査を受けなかった方が、今回のニュースを機に考え直して、検査を受けることを決めた例もありました」(金子さん)

 遺伝医学の進歩で、遺伝が関わる病気の存在が明らかになってきている今、遺伝カウンセラーに期待する役割も大きい。しかし、日本にこの資格が設けられたのは2005年。指定された大学院での養成コースを修了しなければ受験資格が得られないこともあり、有資格者は現時点で138人しかいない。

 しかも、日本では遺伝カウンセラーの多くは、周産期の出生前診断を行っている施設で働いていることが多く、金子さんのように遺伝性腫瘍を専門にする例は非常に少ない。四国がんセンター乳腺科医長の大住省三医師は、その理由をこう指摘する。

「遺伝カウンセラーを置いても病院の利益に直結しないからです」

 同センターでは、遺伝カウンセリングを受けた後に、乳がんを発症した女性が一人いる。遺伝性乳がんのことを理解していたからか、カウンセリング後、頻繁に自己触診などをしていた。その結果、専門の医師でも見つけにくい超早期の段階で乳がんを発見。手術の結果、リンパ節転移もなく、経過は順調だという。

「この患者さんのように、遺伝カウンセラーによる遺伝カウンセリングで命を救える可能性もあるとしたら、それは何にも代えられない。医療機関も遺伝カウンセラーの重要性を理解し、また制度的にも支援すべきでしょう」(大住医師)

週刊朝日  2013年9月20日号