今年2月、5人が死亡した長崎市のグループホームの火災を受け、国交省は全国の認知症グループホームに対し、防火や避難に関する建築基準法令を順守しているか調査を行った。その結果、全国の施設1万1745カ所のうち、731施設で違反があると判明。築約40年の古民家を改修し“家”を意識した「むつみ庵」(大阪府池田市)は全面改修の指導を受けた。閉鎖するか、継続するか――。代表を務める僧侶の釈徹宗さん(51)が胸の内を語った。

――こんな例がある。富山県のデイケアハウス「このゆびとーまれ」は、通常は分けなければならない障害者と高齢者、子どもに対し、同一の施設内で福祉サービスを提供する。「富山方式」とも呼ばれ、民間の活動に合わせ、行政側も柔軟に対応する。釈さんはこのようなモデルが池田市でも作れるのではないかと考える。

「法令を守りながら、こういう家でも工夫をすれば、防災・防火ができる新しい古民家改修のモデルを一緒に作りたいんです。『池田モデル』と言われるぐらいの取り組みをやりましょうと呼びかけていますが、残念ながら池田市にはそういう気概が感じられません。

 たとえば床の間があったら、お花をいけたり、お軸をかけたり、お香をおいたりするでしょう? 荷物を積み上げたりはしない。床の間なんて、なくても暮らせるけれども、あれば気になるもの。そういう理屈に合わない不合理なものを文化と呼ぶのであれば、介護の世界は文化というものをもっと考えないといけないと思ってるんです。

 人間の暮らしというのは、最低限のものが保障されれば生きていけるかといえばそうではないでしょう。東日本大震災でも、ライフラインの確保ができたら、アー卜や芸能や音楽が必要になり、そういうものがなければ、人間は立ち直れない。それと同じで、理屈で考えすぎて、不合理なものを軽視しているように感じます。少なくとも、むつみ庵のようなグループホームが選択肢としてあることは大事だと思いませんか?

 今回は続ける方向でやっていきたいと思っています。ずっと折り合い地点を探していたのですが、あきらめて、すべて従うことにしました。あとは工事中の利用者の生活が心配でしたが、庭にある物置を居間に改造して、工事のあるお昼間はそちらで過ごしていただき、夜にむつみ庵に帰ってきていただこうと思いつきまして。何とかなりそうかな、と。次に指導されたら、また悩むと思うのですが……」

週刊朝日  2013年7月5日号