高齢者の6割は自宅で亡くなることを望んでいるが、その願いがかなうのは、たった1割。自宅での死には、在宅医の存在が不可欠だという。95歳で亡くなったあるお年寄りと10年間介護を続けた娘の実話を紹介する。死に目にはあえなかったというが……。

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「大ばあちゃん。天国に行っても元気でね」

 2010年12月。8歳の祐紀君は、曽祖母である、キミさん(享年95)にあてた手紙を声に出して読むと、キミさんの柩にそっと置いた。

 茨城県つくば市に住む幸田和子さん(70)は、実母であるキミさんの介護を10年間続けた。「頑張ることができたのは、母へ恩返しをしなければという強い気持ちからです。私は、育児休暇も満足に取れない時代に働いていましたから、娘の美奈子を産んだときは、生後2カ月から母に預けて働きました」。

 美奈子さんは、それもあっておばあちゃん子に育った。介護生活の間も、週に1度は、幼い子ども2人を連れてキミさんに会いに来た。キミさんのベッドのすぐ脇では、ひ孫たちが遊び、おやつを食べる光景が見られた。キミさんの誕生日には毎年、幼いひ孫たちが手作りのプレゼントを贈った。

 キミさんは、ひ孫の顔を見ると、とろけそうな笑顔を見せていたという。

 口にはチャック、愚痴は言うまい。和子さんの強い精神力が介護一色の10年間を支えた。そんな日々がついに終わりを迎えたのが、10年12月5日だ。

 和子さんは、妹とお昼を食べに出かけた。家を出る前に、ふたりでキミさんのベッドの脇に近寄った。キミさんは、それぞれとしっかりと目を合わせて、口を動かした。声は出なかったが確かにその口もとは、「ありがとう」と言っていた。

 数十分後、自宅に戻ってみるとキミさんはすでに、目を閉じていた。最期の瞬間に居合わせなかったことに後悔はない。

週刊朝日 2012年12月28日号