2009年秋、2人の女がメディアをにぎわした。木嶋佳苗(37)と上田(うえた)美由紀(38)。それぞれ男たちから数千万~1億円もの金を奪い、かかわった男が次々に不審死していた。上田被告は元スナック従業員。鳥取連続不審死事件で、2件の強盗殺人罪と詐欺、窃盗などの罪に問われている。コラムニストの北原みのり氏が、同じ豊満な体形から「西の木嶋佳苗」とも呼ばれた上田被告の裁判員裁判を傍聴した。

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 午前10時、遺族が座る傍聴席からの射るような視線の中、入廷した美由紀の小ささに驚いた。

 凶暴な女、暴力を振るう女、暴言を吐く女。事件発覚当時、メディアは美由紀をそう描いてきた。男性をフライパンで殴り、熱湯をかけたなど、美由紀の暴力は過剰に報道された。

 目の前の美由紀は、あまりに小さく、弱々しかった。大き過ぎる襟、美由紀の背丈では似合わない大柄模様のロングスカート、ふくらはぎまでの靴下。身につけているものすべてのサイズが合っていなかった。服だけじゃない。椅子に座れば高さが合わず、胸の位置に机があった。ペンを美由紀が持てば、太いマーカーに見えた。たとえ美由紀が暴力女だったとして、150センチ程の彼女に、本気で恐怖を感じる男など、どのくらいいるのだろう。男の多い法廷の中で、美由紀は、誰よりも小さく、丸かった。

 報道されている限り、美由紀の周りでは、少なくとも6人の男性が亡くなっている。うち2人が自殺、1人が事故死、1人が病死とされ、今回の裁判では、2人の強盗殺人が争われる。

 美由紀が奪った人たちは、決して裕福ではなかった。生活保護受給者、障がい者、年金受給者からも根こそぎ奪った。誰と誰が寝てるかを誰もが知っているむせるような人間関係の中で、美由紀はまるでそれが権利であるかのように、男たちから、そして自分と同じように貧しい者から奪っていた。

 法廷でスターのように振る舞い傍聴席を見渡していた佳苗と違い、美由紀は傍聴席を一度も見なかった。世間の敵意と好奇の視線を、随分前から知っているのかもしれない。力が入っていた。小さくて丸いけれど、身体はとても硬いのではないかと思った。

週刊朝日 2012年10月12日号より抜粋