『ベター・ハーフ』は、若い男女と中年男性、そして、トランスジェンダーの女性が登場し、お互いを好きになったり、憎んだり、愛したり、戦ったり、絶望したりする話です。

 4人の登場人物は、「あなたを理解したい」と熱望します。どんなにぶつかっても、絶望しても、裏切られても「あなたを理解したい」という願いを持ち続けます。

 理解できなくても、理解したいと思うのです。いえ、理解できないからこそ、理解したいと願うのです。

 僕は、涙の跡が残る彼女の御両親を見ながら、内心、「子供に誘われて見に来た御両親は偉いなあ。素敵だなあ。なんとか子供を理解したいと思っているんだなあ。戸惑いながら、ここまで来たんだなあ」と思っていました。

 オードリーさん。昨年の相談47「『日本の校則はなぜ厳しいのか』19歳の問いに鴻上尚史が明かした高校時代の闘争」で、僕は、世界は個人の自由や尊厳を認める方向に、より多様性を肯定する方向に間違いなく進んでいると書きました。

 でもだからこそ、世界のあちこちでは、その変化に対して強く反発し、自分の今までの価値観をより頑固に守ろうとする人達が存在します。

 自分が少数派になることを認められなくて、自分の価値観が崩れていくことに耐えられない人達です。

 よく「大人になれ」と言われます。「大人になる」というのは、僕の考えだと、「他者となんとかやっていける人になること」です。

 他者とは、「受け入れたいけど、受け入れられない」、同時に「受け入れなきゃいけないんだけど、受け入れたくない」という矛盾した相手のことです。

 息子だと思っていた子供が、ある日、自分は娘なんだとカミングアウトした時、僕の知り合いの御両親はこの状態になったかもしれません(勝手な想像ですが)。

「子供を理解したいけど、理解できない」、同時に「子供を理解しなきゃいけないんだけど、理解したくない」という揺れ動く心の状態です。

 この状態は、どちらかに着地することは、なかなかありません。もちろん、「よし、受け入れよう。理解しよう」と、すっぱりと思えれば素敵ですが、人間の感情や思考は、そう簡単ではないでしょう。

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理解できない相手と、なんとかやっていけるとしたら…