一般に、夫婦は似た顔の人が多いのです。これは顔が似ている人を好きになりやすい傾向のあらわれです。趣味や考え方が似ていると一緒に生活しやすいものです。一目ぼれは、顔でそのことを判断していることの現れかもしれませんね。

 では、赤の他人として結婚した夫婦が、「血がつながっていないのに、すごく顔が似ている」と思われたとき、果たして血がつながっていないのでしょうか。

 夫婦それぞれの500年前の祖先を考えてみましょう。祖先が平均して25年で子どもを産んできたと考えると、50年前に生まれた、夫の「祖母と祖父」は4人います。100年前に生まれた、「祖母と祖父」のそのまた「祖母と祖父」は全部で16人います。こうして考えると、500年前の夫の祖先は16×16×16×16×16=1048576で、約100万人になります。同様に妻の500年前の祖先も100万人いることになります。

 500年前の人口から考えるとこの数字はあまりに大きいですね。じつはこの計算上の100万人の中に、同一人物がかなり大勢いるのです。つまり、ある人の母方の祖先と、父方の祖先に同じ人がほとんど確実にいるのです。だから、赤の他人と思って結婚しても、祖先を何百年もたどると同じ人がいることがほとんどなのです。顔が似ているのは、その祖先から引き継いだ遺伝子の影響なのでしょう。

 さらに祖先をさかのぼって十数万年前を考えてみましょう。このころの人類の祖先はアフリカの草原で生活していました。ミトコンドリアという細胞内器官の遺伝子を解析すると、どの人種や民族の人々も、その母方の祖先をたどると特定のアフリカの女性に行きつくことが知られています。その女性は「ミトコンドリアイブ」と呼ばれ、地球上の全人類の祖母なのです。まさに「人類みなきょうだい」であり、血がつながっているということです。

【今回の結論】顔が似ていると思うのは、顔が見分けられないためかもしれない。その点に注意して確かに似ているかどうかを見きわめよう。それでも似ているという場合は、おそらく共通した祖先から引き継いだ遺伝子の影響である。人類はみな、血がつながっているのだから

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