300系の経験から、先端部分を低い位置にすると空気の引きはがされ方が顕著になり、尻振り現象が発生することが分かったため、700系(1999年)では従来のように先端部分を高い位置とした設計に変更された。微気圧波問題についても、先頭部分が徐々に変化するような形状になり軽減された。「エアロストリーム型」と命名されたこの形状は、その見た目から「カモノハシ」や「革靴型新幹線」などとも呼ばれた。
700系登場時点では東海道新幹線区間の最高速度は300系と同じ275km/hで、それをさらに向上するため、「最新技術という、おもてなし」というコンセプトでN700系(2007年)が開発された。デジタル式のATC-NSの位置情報を利用し、空気バネを利用した車体傾斜装置を採用、最高速度が東海道新幹線区間において285km/hと向上した。速度の向上に伴って微気圧波対策も強化され、先頭部分は「エアロ・ダブルウィング形状」とし、先頭部分の絞り込み部分は、700系の9.2mからN700系では10.7mと長くなった。
さらに先頭車は後位(後部)寄りデッキ付近は中間車と同じ3,600mmの車体高となっているが、それより前位(先頭部分)寄りを3,500mmと低くして、車体断面積の変化を緩やかにすることで、微気圧波のより一層の低減を図っている。
N700系はその後、ブレーキ装置など走り装置の改良を行ってN700A(2013年)と進化し、微気圧波対策も完成した感があったが、実はまだ尻振り現象は発生していて、これをさらに抑え込むことに設計の主眼を置いたのが今回のN700Sである。
■三次元設計で空気の流れを精密に計算
N700系設計時では二次元による設計が行われたが、N700Sでは3Dシミュレーションを利用することで、最後尾となった際の空気の流れを精密にシミュレーションした。その結果をN700Sの設計に生かし、先頭車形状は両サイドにエッジを立てた「デュアルスプリームウィング形状」が生まれた。こうしてN700Sは尻振り現象を大幅に抑制し、安定した乗り心地を確保している。一方方向に進むことが前提の自動車や航空機と違い、前後に走行する必要のある鉄道車両ならではの設計といえる。