東京五輪開幕の7月に営業運転の開始が予定される次期型東海道・山陽新幹線のN700S。外観は現役の最新車両であるN700Aとあまり変化はないようだが、改良点はどうなっているのか?「ワンランク上の乗り心地」を目指した最新車両の技術的な進化を2回に分けて解説する。
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■300系の前面デザインで発生した尻振り現象
N700Sは2020(令和2)年夏に営業運転予定の東海道・山陽新幹線の次期型車両である。最初の新幹線車両である0系(1964年。営業運転開始年、以下同)は空気抵抗を減らすため、流線形の先頭形状が採用された。車両性能としては問題なかったが、微気圧波という新たな問題が発生した。
微気圧波とは、列車がトンネルに高速で進入した際、急激に圧縮された空気が衝撃波となって、トンネル反対側で「ドン!」という大音響を発する現象だ。正式な呼び名は「トンネル微気圧波」と呼び、その現象から「トンネルドン」と通称されている。騒音公害として問題視されるようになり研究が進むと、トンネル開口部を漏斗状に細くすることで大幅に軽減できることが分かったが、トンネルの改修は容易でないために、トンネル開口部に緩衝工というサイレンサーを設けることで対処してきた。
この微気圧波を車両側で対処しようとしたのが300系(1992年)だ。車体を低くし、車体断面積を小さくすることで微気圧波の低減を図り一定の成功を収めた。しかし、空気抵抗を減らすために先頭車の先端部分をレール面に近づけた独特のデザインが、「尻振り現象」を発生させることとなった。これは、列車の最後部になった際に、車体に沿って流れてきた空気が先端部分に集中し、車体表面から引きはがされることで、カルマン渦(またはカルマン渦列)と呼ばれる空気の乱流が発生することで起きる現象だ。これは当時の設計技術では予測できなかったことで、前後に走行する必要のある鉄道車両ならではの課題であった。
カルマン渦は振動を伴ったり風切り音などの発生にもつながる。風の強い時に電線がピューピュー鳴るのもカルマン渦が原因である。JR西日本の500系(1997年)に採用された翼型集電装置(パンタグラフ)は、表面に細かい突起(ボルテックスジェネレータ)を設け、小さなカルマン渦を発生させ、集電装置から発生する大きなカルマン渦の発生を抑制しているものだ。無音飛行を行うフクロウの羽も同様の構造になっており、ボルテックスジェネレータはこれを応用した技術である。