ドラマで俳優がある人物を演ずる場合、本人でないことは明確です。一方、AI技術で本人そっくりの存在を作り出すことは、人格の再現性が強い。頭では本人でないとわかっていても、つい重ねてしまう人もいます。今後、技術の発展に合わせて表情も会話もリアルになり、さらに人格の再現性が高まるでしょう。そうなると、人々の反応もいっそう大きくなるはずです」

 美空ひばりが亡くなった89年は、昭和天皇が崩御した年でもある。例えば、昭和天皇をAI技術で甦らせたら、AI美空ひばり以上に批判が起きるだろう。AIを使って故人の人格をコピーすることは、人間の心を揺さぶるものがあるのは間違いない。

 著名人に限らず、亡くなった家族や恋人をAIで甦らせることで起きる問題も懸念される。

「考えられるのが『依存』の問題です。例えば家族や恋人を失った寂しさを埋めるために故人がAI技術で復元されると、いつまでもそれに依存してしまう可能性があります。有名人がAIで再現されて、高額な商品を売りつけるようなビジネスもありえます。また、AI技術が暴走した場合、誰が責任を持つのか。開発者なのか、それとも操作した人なのか。そのあたりの議論も深まっていません」(福井弁護士)

 故人の意志に反した行動をすることも、どこまで許されるのだろうか。NHKの番組では、今回の美空ひばりのAI化については「遺族やレコード会社の許可を得た」と説明している。しかし、美空ひばりとNHKには浅からぬ因縁もある。

 73年、暴力団に所属していた美空ひばりの親類が脅迫などの容疑で逮捕され、紅白に出場できなくなった。それまで10年連続で紅組のトリを務めていたが、以降は79年に特別コーナーで出場しただけ。晩年は紅白に出場しなかった美空ひばりが、AI技術で新曲を披露することに、違和感を感じるファンがいてもおかしくない。

 故人の意志に関係なく「新しい作品」が発表されることは、倫理的な問題もある。先に紹介した中村メイコも、同じ番組で「あの人(美空ひばり)を亡くしてから『全部嘘であって欲しい。まだ生きている』って思ってきた。これが、『ひばりさんの“作った声”ですよ』って言われることで離れる気がするの」と、複雑な気持ちを吐露している。

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すでにAIによる人間のコピーで問題が起きている