日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、自身も1児の母である森田麻里子医師が、「五輪前に済ませたい麻疹対策」について「医見」します。
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産まれたばかりの赤ちゃんは、さまざまな病気に対しての自分の免疫をまだ持っていません。ワクチンで予防できる重大な病気、例えば麻疹(はしか)などについても、予防接種を打てるようになるまでは、おなかの中でママからもらった免疫で病気と闘うことになります。
麻疹は肺炎や中耳炎、脳炎といった合併症を引き起こし、先進国でも1000人に1人が亡くなる非常に怖い病気です。感染力が強く、空気感染するため、いくらマスクや手洗いをしっかりしていたとしても、感染した人と同じ空間にいただけでうつってしまいます。
しかし、ママからもらった麻疹の免疫はかなり早いうちになくなってしまうことが、カナダの研究で明らかになりました。
この研究では、0歳の赤ちゃん196人の血液中の麻しん抗体を調べたところ、生後1カ月になるまでの赤ちゃんでも20%が基準値以下で、生後3カ月までには92%の赤ちゃんで基準値以下となっていました。そして生後6カ月には、調べた赤ちゃんの全員で、抗体は基準値に達しませんでした(※1)。
麻疹の予防接種は1歳から公費で打つことができますが、生後3~6カ月から1歳になるまでの赤ちゃんは、ほとんどが麻疹に対して丸腰の状態だということです。
さらに、11月にハーバード大学から発表された研究によると、麻疹は体の免疫の記憶をリセットしてしまうという恐ろしい悪影響もあることがわかりました。
人間の体は、ウイルスに感染するとその形を記憶していて、次に同じウイルスが侵入してきたときにすぐさま戦えるような仕組みが備わっています。麻疹ウイルスはこのような記憶を保持する免疫細胞に感染し、これまでの免疫の記憶を消してしまうというのです。