外国人はマネーファーストだから、情に訴えても意味がない。始めからあまり細かい話はせずに、「俺がトップに立つ団体で、お金の用意はある。だから加勢してくれ」というスタンスで臨んだら、OKが出た。もしかすると断られるんじゃないかという相手に対しては、おいしい話を1つは用意しないとね。あの交渉では、ハルク・ホーガンたちが東京で活躍すれば、他のレスラーも自然と日本に浸透するから、という話を強調したら、向こうは日本市場の開拓という将来性の話に興味を持った。結果的には現在の彼らにとってもいい結果につながっているし、俺は成功だったと自負しているよ。

 あとは、恋愛の駆け引きも交渉事に入るのかな。俺は13歳のときには相撲部屋に入っていたから、同級生に比べれば目立つ存在だったし、もちろん十人並みに端正な顔立ちだったから(笑)。恋愛を舐めていたところがあった。失恋や恋愛は自分の人生やしぐさを振り返るいい勉強だとは思うけれど、相撲という特殊な世界にいると、「これくらいの家柄じゃないと幕内力士に釣り合わない」「これくらいの性格じゃないと、力士のわがままには付き合えない」なんて、女性を勝手にランク付けしちゃう。そうすると、実際に駆け引きをするところまでは至らないんだよね。

 ただね、年をとって夫婦仲が悪くなったり、色んないさかいが起きたりするという話を聞くと、男が結婚を申し込むときに、女性側はそれを断る口実なんて腐るほどあるわけだよ。それなのにプロポーズを受け入れてくれたということはすごく重要なことで、男は生涯サポートしなきゃいけない。そこはブレちゃいけないと思うね。

 この延長線上にあるのは、男は結婚を申し込むときに、相手のどこが好きなのかという点を明確にしておくこと。「お前の横顔が好きだ」「性格が好きだ」とか、ほんの些細なところでも、それを忘れなければ、生涯仲睦まじく生きていける。同じ目線で会話をしながら、最終的にはよき友になれる。だって、言いたいことを言い合える相手なんて、年とともに減っていくんだから。俺の場合は女房の性格や顔立ちが、それまでに出会った女性にはなくて、そこに惹かれたところが大きいね。交渉のイロハを教えられるなんて、そのときは気が付かなかったな(笑)。

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娘に伝える「帝王学」