そもそも、破傷風とはどんな病気なのでしょうか。破傷風とは、破傷風菌が傷口から体内に侵入して作り出す神経毒素(破傷風毒素ともいう)によって、3日から3週間の潜伏期間の後、「口が開けにくい・首筋が張る・嚥下(えんげ)が難しい・こわばり・寝汗」といった局所の症状から出現し、次第に開口障害が強くなります。苦笑いするかのような表情も見られます。次第に、体の痛みや痺れが全身に広がり、全身を弓のように反らせる姿勢や全身の筋肉のけいれん、呼吸困難が生じたのち、呼吸筋がまひして最悪の場合、死に至る病気です。
なお、口が開けにくいなどの症状出現から全身のけいれんが始まるまでの時間が48時間以内でれば、予後不良であることが多いと言われています。
破傷風菌は嫌気性菌、つまり酸素がある環境下では生きることができません。そのため、熱や乾燥に強い芽胞という形で、世界中の土の中に広く生息しており、転倒による事故やガーデニングや農作業などの土いじりの際にできた傷口からの感染が最も多いのです。地中や木材に使用されている古いクギでけがをしてしまっても、破傷風に感染するリスクが高いです。
以前、当直をしているときに、工事現場で作業しているときにたら、釘が刺さってしまったという方が救急外来を受診されました。傷口は確かにあるのですが、釘は確認できなかったので、念のため手のレントゲンエックス線をとったところ、釘の破片が映っているではありませんか。ちょうど指導医が外科医だったため、早急な対応をすることができ、かつワクチンも接種することができたという1例を経験したことがあります。その際、破傷風に感染するリスクは日々の生活の中に潜んでいることを教わったのでした。
破傷風感染の歴史をひもとくと、破傷風は致死率の高い恐ろしい病気だったことがわかります。戦後すぐの1950年の破傷風患者数は1915人、死亡者数は1558人であり、致命率はなんと81.4%。命を奪うとても恐ろしい病気だったのです。