一方で建設に反対してきた立場の人たちからは、「本格運用後の八ッ場ダムの洪水調整容量は最大で6500立方メートル。今回並みの降水量になれば緊急放流の可能性が高かった」「下流での減水効果は十数センチ程度にすぎない」などの見解も示されている。宮村氏は「いずれにしても、八ッ場ダムが今回貯め込んだだけの水量がそのまま流れていたら、下流は大変なことになっていたはず。試験湛水を迎えた段階だったことは、運がよかった」とみている。

 結局、八ッ場ダムの貯水位は試験湛水開始からわずか2週間あまりのちの10月15日午前6時頃、予定の標高583.0メートルに至り、貯水率は100%に達した。急激な増水により堤体や周辺への悪影響を懸念する声もあるが、八ッ場ダム工事事務所は「現在のところ異常は確認されておりません」としている。

 八ッ場ダム湖は満水状態をおよそ1日間続けたのち、1日1メートル以下のスピードで水位を最低水位(標高536.3メートル)まで降下させ、試験湛水を完了する。以降も「引き続き、安全性の確認を実施してまいります」という。かつて吾妻川沿いの渓谷美のなかを走っていた吾妻線旧線や川原湯温泉駅の跡地なども、これで完全に湖底に沈んだ。

■思いのほか有効な流木の貯留による防災効果

 利根川水系では、八ッ場ダム以外の既設ダム群も十分な治水効果を発揮した。神流川の下久保ダムは1969年の運用管理開始以来最多となる、累計513ミリの降水量と毎秒1840立方メートルもの流入量を記録。しかし、10月11日の夜から事前放流を行ってダム湖の貯水容量を増やし、3141万立方メートルを貯めた。

 放流量は毎秒795立方メートルに抑えられ、下流9.5キロ地点(群馬県藤岡市・埼玉県神川町)で約1.8メートルの水位低減効果をもたらしたという。渡良瀬川の草木ダムも同様の操作により、下流のわたらせ渓谷鐡道花輪駅(群馬県みどり市)付近で、約1.21メートルの低減効果があった。水資源機構荒川ダム総合管理所は、荒川水系の浦山ダムでも0.9メートル、滝沢ダムでは2.5メートルの低減効果があったと発表している。

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ダム湖が橋梁の流出を防ぐ