1947年9月8日に上陸し、関東・東北地方に死者・行方不明者1930人という甚大な被害をもたらしたカスリーン台風では、利根川・荒川が各所で氾濫(はんらん)した。東京都内も濁流に襲われ、葛飾・江戸川区内を中心に計8万8430棟が床上・床下浸水、死者8人・負傷者138人を出している。

 常磐線や総武本線などの主要鉄道路線も、長期間の不通を余儀なくされた。ただし、都内に被害が生じ始めたのはカスリーン台風が三陸沖へ去った9月15日からさらに4日後、同19日未明に東京・埼玉都県境の桜堤(荒川堤)が決壊したのちのことだった。そのあたりも、傾斜の緩い平野部を流れる大河川における氾濫の恐ろしさを示している。

 その後、国は再びの大氾濫を防ぐには、利根川・荒川上流部の本川と支川に治水を主目的としたダム群を建設することが適切であると判断。さらに下流部に大規模な遊水地・調節池の建設を計画する。現在までに八木沢・藤原(利根川)・奈良俣(楢俣川)・相俣(赤谷川)・薗原(片品川)・下久保(神流川)・草木(渡良瀬川)の各ダムと、渡良瀬川に渡良瀬遊水地、本川に荒川第一調節池などが建設された。

 さらに、最後に残された利根川支川の吾妻川にも八ッ場(やんば)ダムが2015年になってようやく本体工事に着手され、2019年度内の完成を目指している。荒川にも二瀬ダム、支川に滝沢(中津川)・浦山(浦山川)・合角(かっかく、吉田川)の各ダムがある。

■「緊急放流」を回避した利根川・荒川水系のダム

 完成直前に行われる試験湛水(たんすい)を行っていた八ッ場ダムを含む利根川上流部のダム群は今回の台風19号で、大きな防災効果を発揮した。台風19号の上陸時の中心気圧は955ヘクトパスカル、最大風速は秒速40メートルとみられている。国土交通省の資料によると、カスリーン台風は最盛期に960ヘクトパスカル・秒速45メートルだったといい、台風19号の勢力は、ほぼこれに匹敵するものだった。

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