心理学者のマズローが唱えた、「欲求五段階説」で考えてみましょう。人間には五つの欲求があり、一つ下の欲求が満たされるとその一つ上の欲求を抱くことができる、その欲求段階が上なほどより健康で、より生産的で、より幸福になれるというものです。
人間の第一の欲求は「生理的欲求」、つまり食欲や睡眠欲です。この「食べられる」「眠れる」が満たされると次にうつれるわけです。そして第2の欲求こそが「安全欲求」、つまり「自分は生きていけるのか?」という不安をなくしたい、という欲求です。
大人なら、仕事でお金を稼いだり、保険に加入したりすることで「今後生きていける」という安心感は強くなりますが、子どもは自分の力だけで世の中を生きてはいけません。そのため、この欲求は、一般的に幼児期に強く出るものだと言われています(近年は、お金を稼いでいない50歳が、支えてくれている80歳の親に対して「いなくなったらどうしよう」と憂う「8050問題」が増加していますが)。
「今後生きていけるだろうか」という不安が大きいと、第3の欲求「受け入れられたい」、第4の欲求「認められたい」、第5の欲求「自己実現したい」という、人間として健全な精神が生まれることはないのです。
うつ病などの精神疾患も、幼少期の精神状態が少なからず影響しているケースがあるといわれます。大人になってから安定した心をつくるために、幼少期は親がどっしりと構えて、子どもが安心できる環境を構築することが重要です。
■親子とはいえ、親と子どもは異なる別の人間である
だからこそ、私は、子ども向け絵本にメッセージ性は不要だと考えています。カラスがパンをつくったり、ネズミがカステラをつくったり、子どもが面白いと思えばいい。せいぜい、きちんとあいさつをしたり、けんかをしたらきちんと謝ったりする程度で十分ではないかと。
親子とはいえ、親と子どもは異なる別の人間だということを、きちんと意識すべきです。子どもの頃はまだ多様な価値観に触れていないため、親の言葉や考え方にかなり染まりやすい傾向があります。