「本」を読む年齢にもなれば、子どもが自分で読む本を好きに取捨選択できますが、「絵本」は、子どもが何もわからない状態で親が一方的に与えるものです。そのため、絵本のメッセージは、親の思想や嗜好(しこう)の押し付けにもなり得ます。
のぶみさんのほかの作品は読んでいないのでわかりませんが、上記の曲と絵本は子ども向けというより、「自分はがんばっている」「自分は子どもに必要な存在」と確認や認識するための、一部の親に向けた大人目線のコンテンツと表現したほうが適切でしょう。
読み聞かされるものを選ぶという選択肢が幼児期の子どもにはない以上、「何かしらのテーマ性」を扱っている作品は、自分好みのものを「安易に」子どもに押し付けるべきではないと思います。それはもちろん、絵本のことだけに限りません。
映画では年齢による制限を設けてR15やR18の印がついていますし、オモチャなんかも、小さいものはのみ込むと危ないので、5歳以上からと箱に書かれています。こうしてパッケージにしっかり書かれているものはわかりやすいですが、日常の中にも目安として「適性年齢」が書いてあったら便利なのに、と思うものは意外とたくさんあります。
たとえば私の場合、小さい頃、図書館においてあった戦争の漫画『はだしのゲン』を読んで、かなりのショックをうけました。今なら、『はだしのゲン』を読む必要性や、そうした漫画が存在すべきだという重要性がわかります。しかし、幼い子どもが「死」に対して何かできることなんてありません。
私は途中でページをとじ、ひたすら「怖い」と思うしかありませんでした。今振り返っても、「死」に対して逃げることも向き合うこともできないあの時期に、あえて手に取る必要はなかったと思います。あの漫画は、メッセージ性が強い大人を対象にしたコンテンツです。
そこで、想像してみてください。もし幼少期に、「大切なことだから」と、家で日々無理やり『はだしのゲン』を読まされたら……きっと、恐怖を感じるとともに、家の中で居心地の悪さを感じるようになるでしょう。
子ども時代は、家と学校(幼稚園)のニつが世界の大部分を占めているので、家が安心できる場所でなければ、学校でなにかあったとき、逃げ場がなくなります。つまり、さまざまな方向から、心に不安をつくりあげるのです。
『はだしのゲン』はかなり極端な例ですが、母親が子どもを育てるのにどれだけ苦労しているかや、母親が死んでしまったらと問うことは、子どもの精神に影響を与える要因となる可能性があります。
もちろん、子どもの個性もあるので、子どもに何を買い、何を伝えるかは各々の親が判断すべきことであり、作品自体を厳重に規制すべきとは全く思いません。ただ、「ある程度の年齢になったら考えればいいもの」に関して、大人は安易に、自分の好みだけで子どもに押し付けないという慎重さは必要だと思うのです。