幡野:医療の制度も変えていかないと成り立たない。僕も昔、医者は金持ちで病院はもうかっていると思っていたのですが、それは開業医に限った話であって、大学病院はそんなことないですよね。

大塚:大学病院に勤めている医者は、大学病院の仕事だけでは食べていけないので、外部の病院にアルバイトに行くんです。それは大学の医局が見つけてくれたりするのですが、その紹介がないと生活できないんですよ。

幡野:まあ、そのおかげで若い先生は経験を積んだり、小さな病院に人手が回って助かったりするのかもしれませんが……病院の数が多すぎるというのもありますよね。大きい病院にまとめたり、医者を集中させたりするのも大事だと思います。

 医者はボランティアとして働くべきだと思っている人もいますが、医者だけが疲弊していく現状はよくないと思います。

大塚:でも若い世代は変わっていますよ。かつては、医者は患者のために寝ないで、お金はないけれど自分の人生を捧げるものだ、というのが医者の理想の典型でした。でもいま、医者の仕事に関しては、外部からのチェックが入るようになっている。

 たとえば、このあいだ厚生労働省が医者の上限労働時間を決めました。あれって、当然のように過労死のラインを超えているんですよね。医者は当然怒りましたが、それと同時に僕たち医者は、急に労働時間を縮減したら現場が崩壊するというのもわかっている。だから徐々に変えていくしかない。

 こういったことがニュースになることも増えてきました。だから「医者も疲弊している」「医療現場が危機にある」という世論の土壌はできていると思うんです。

幡野:うーん……それはどうですかね?

大塚:それは期待しすぎかな?

幡野:以前僕は、医者の給料を上げて休みを与えなきゃだめだという文章を書いていました。その根底にあるのは、患者を幸せにするには、まず医者が幸せにならなければならないということなんですよね。医者はワーカホリックで家庭を顧みない人が多いじゃないですか。それよりも、自分の人生をまっとうしてほしいと思うんです。

 ということを書いたのですが、反論がたくさんきた。その反論をしてきたのは誰かというと、患者さんなんです。

大塚:なるほど。

幡野:医者に対して不満を抱いているのかな。「医者を高給取りにするのか」といったねたみもあるのかもしれません。最終的に患者の首を絞めているとしか思えないのですが、医者に得をさせたくないと思っている人がいるんです。

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患者と医師の葛藤を報道しなかったマスコミ