医療を必要としているのに医療が届かず苦しんでいる人たちが存在しています。精神科医として日々、診療にあたっている千葉大学病院精神神経科特任助教の大石賢吾医師は、「医療の現場からでは、そのような境遇にある人たちにメッセージを伝えることがとても難しいのが実情です」と語ります。今回は、本連載「医療が届かずに悩んでいる方へ 一精神科医の切なる想い」を始めるきっかけについて、紹介します。
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コラムを読んでくださっている皆さま、はじめまして。大石賢吾です。改めて「はじめまして」というのも変な感じがしますが、読者の皆さまに向けて書かせてもらうのは初めてなのでごあいさつから。
おかげさまで当コラムは第10回を迎えました。今回は、当コラムを始めることになったきっかけや願いをご紹介できればと思います。番外編になってしまいますが、すこしばかりお付き合いください。
当コラムの連載を担当させていただくことになったのは、まさに日頃の診療での経験があってのことでした。精神科医として、新しい患者さんの診療にあたると、受診に至った精神症状の程度がさまざまであることに気づきます。
例えば、「この前テレビで認知症がやってるの見て心配になっちゃってさ」と談話がなじむケースもあれば、家族に説得されなんとか受診にこぎつけたものの、既に眠れず食事も取れない状態で「大丈夫なんです。仕事を休むわけにはいかないんです。まだ頑張れるんです」と主張されるケースも経験します。
受診するかどうかについては賛否両論あると思いますが、ここで重要なのは、医療を必要としているのに医療が届かず苦しんでいる人たちが存在していることだと思います。中には、最後まで医療が届かず、地域社会の中で苦しまれている人たちもいるかもしれません。
しかし、医療の現場からでは、そのような境遇にある人たちにメッセージを伝えることがとても難しいのが実情です。「どうにかアプローチできないか」と考えていたところ、メディアの力をお借りすれば届けられるかも、と思い立ったのが当コラムを担当させていただいたきっかけでした。