実際、たばこよりもアルコールのほうが健康には悪いのではないかという意見もある(Alcohol is worse than cigarettes. The Guardian Internet. 2009 Oct 19 cited 2016 Oct 25; Available from: https://www.theguardian.com/commentisfree/2009/oct/19/alcohol-worse-than-cigarettes)。

 ぼく自身はこの「たばことアルコールはどっちがより悪いか」という問題についてはたぶん、どっこいどっこいだと思っている。微細な差はあるのかもしれないけれど、そんな「比較」は不毛な議論だとすら思う。健康への悪影響がある点、社会的に問題がある点においてはどちらも変わりがないか、大きな違いはない。

 ただ、喫煙と喫煙者にはものすごく辛辣で厳しく非難するくせに、自分の飲酒には恐ろしく甘い医療者はわりと多い。そういうのはおかしい、とぼくはいつも思っている。それって二重規範、ダブルスタンダードではなかろうか。

 世界保健機関(WHO)は、毎年およそ600万人の命がたばこによって、250万人の命がアルコールによって失われていると説明している(http://drugfree.org/learn/drug-and-alcohol-news/who-report-smoking-and-drinking-cause-millions-of-deaths-worldwide/)。

 600万と250万だから、後者を看過して良いのだろうか。そういう議論ではないだろう。健康ハザードは価値中立的に、自分の主観や嗜好を抜きにして議論すべきだ。一般に、日本の医者はしばしば酒に甘く、たばこに厳しい。非科学的なまでに。これは好ましい態度ではないとぼくは思う。

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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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