日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、自身も1児の母である森田麻里子医師が、「自閉症児のサポート」について「医見」します。
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自閉症(自閉スペクトラム症)は、近年増加している発達障害のひとつです。生まれつきの障害のため完全に治るものではありませんが、安定した社会生活を送ることができるよう、療育という形でのサポートが行われます。先月、新しいテクノロジーを用いた療育について研究の続報が出てきましたので、解説したいと思います。
自閉症の特徴は、対人関係やコミュニケーションに支障をきたしたり、興味や活動に偏りが出たりすることです。具体的には、視線が合わない、指さしをしない、いつもと違う道を通ろうとすると非常に怒るなどといったことがあります。症状が軽い人も含めると、自閉症自体は珍しいものではありません。
アジア、ヨーロッパ、北アメリカなどでは、平均して1~2%の人が自閉症と考えられています。日本の調査では、例えば平成23年~25年に多摩地域の保育所・幼稚園に通う4~5歳児を対象に行われたものがありますが、自閉症児の割合はおよそ3.5%という結果でした。
原因は完全に明らかになってはいませんが、遺伝的な要因により、生まれつき脳の機能が異なっていることが大きいと考えられています。実際、男の子の方が女の子より約4倍多く、兄弟姉妹が自閉症だと発生率はおよそ20%に上昇します。7月に発表された、デンマーク、フィンランド、スウェーデン、イスラエル、オーストラリア西部の合計200万人を対象に行われた研究によると、遺伝的要因が影響する割合は80.8%で、妊娠中の環境要因は0.6~1.4%と推定されました(※1)。
「妊娠中には○○に気をつけるべきだ」というようなネットの記事などもありますが、この数字を見ると、妊娠中の行動の影響は非常に小さいことがわかります。
また、一部に、「予防接種が自閉症の原因になっている」とする説もあるようですが、これは現在否定されています。きっかけとなったのは1998年に発表された論文ですが、この論文は不正があったとして現在撤回され、この論文を書いたウェイクフィールド氏は2010年に医師免許を剥奪されています。