だが、そんな万能型の宮迫にも唯一の欠点があった。それは、自分がイジられるのを苦手としていることだ。宮迫は人一倍自己愛が強いため、他人から欠点を指摘されたり非難されたりするのをどうしても受け入れられないところがある。

 この手の芸人の中には「イジられるのを受け入れられない」ということ自体をイジられて結果的に笑いが起こる人もいるのだが、宮迫はそこにも当てはまらない。ある一線を超えたところからは「絶対にイジらせない」という空気を発しているので、ほかの芸人もそれ以上は踏み込むことができないのだ。

 そんな宮迫は、トラブルに陥った際、自分が下手に出る対応をすることがどうしてもできない。2017年に週刊誌で不倫疑惑が報じられた際にも、記者の直撃に対して白黒不明の「オフホワイトです」と答え、レギュラー出演していた『バイキング』(フジテレビ系)でもあやふやな釈明に終止して、バッシングを受けていた。

 今回の騒動でも、最初は反社会的勢力から金銭を受け取っていないと証言していたのに、途中から前言を翻して金銭を受け取ったことを認めた。また、その際に発表された謝罪文の中でも「間接的ではありますが、金銭を受領していたことを深く反省しております」と言い訳がましい言葉を並べたことで、世間から非難を受けていた。

 イジられるのが苦手なこと自体は芸人として悪いことではない。どんな芸人にも苦手なことはある。世に出ている芸人は、苦手な分野を上手く避けることで、苦手を苦手だと見せないようにしているだけだ。宮迫もそういうふうにして自身のキャリアを築いてきたため、その欠点は長い間ずっと目立っていなかった。だが、度重なる不祥事によって、多才な芸人が唯一持っていた弱点は深くえぐられ、そこに致命傷ができてしまった。

 個人的には、宮迫博之ほどの芸人がこの程度のことで契約解消にまで至ってしまうのか、という驚きがないわけではない。ただ、今の時代、反社会的勢力に関することはあらゆるメディアや企業が最も神経質になっている部分であり、それについて生半可な対応は絶対に許されない、ということは理解できる。才能も人望も富も名誉も、何もかも手にしていたはずのお笑い界のトップランナーは、思わぬ形で表舞台を去ることになった。(ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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