――東京大学大学院学際情報学府を選んだのはどうしてですか。

荻上:当時尊敬していて趣味で読んでいた本の著者、社会学者や政治学者にジャーナリスト……パンフレットをみるだけでも知っている教授が10人ほどいたこと。もともと新聞研究所で、戦前戦時中のプロパガンダ研究や日本の新聞研究がおこなわれていて、伝統的なメディア研究所としての機能もある場所ということ。ここなら、学問の世界だけでなく社会と接点のある研究ができるんじゃないかと考えました。

 自分と同じように成城から東大の院に進学した先輩がいたので、話を聞いたり実際に校舎に足を運んだりと、一番情報が得られたのも東京大学大学院学際情報学府でしたね。

――東京大学大学院学際情報学府はどのような場所でしたか。また、院生時代どのように過ごしていたのか教えてください。

荻上:他の大学院よりも社会人の割合が著しく高く、博士課程に行かずに修士課程で卒業する人が多い場所です。また、教育コースというものがあり、研究者だけでなく直接社会に還元できる人材の育成が強く意識されていました。

 授業は、2005年当時でいちはやくサテライト授業が取り入れられていて。家にいながら出席をとって成績を確保する環境が整っていたんです。他の時間は論文を書くための材料集めや、作曲、ブログでニュースサイトの更新など……好きなことをやっていましたね。

 教授陣のひとりであった社会学者の北田暁大先生の研究室に入り浸っていて。運営していたニュースサイトでフェミニズムについての情報を発信していたところ、北田先生に資料集めを頼まれて、本を作る仕事を手伝ったりもしていました。もともと、何かを表現する世界が好きで、当時はミュージシャンになりたいと言い周りに心配されたりもしていました(笑)。

 まあでも現実的に考えて、本を作ったりブログの更新をしたり……何かをリサーチすることも楽しくやれていたのでそういうことに関われる仕事ができたらいいな、と漠然と考えていました。北田先生の仕事を手伝ったことで、修士論文もフェミニズムをテーマに書き上げました。ナチュラルに関心を持ってナチュラルにやってしまっていることが自分にとってのスペシャリティーなんだろうな、と思いました。

――大学院時代の経験が今に活きていることがわかりました。では、大学院の魅力はどんなところでしょうか。

荻上:豊富な情報へのアクセス権があることですね。大学院に進学した理由のひとつに「図書館が使える」という点がありました。大学院には図書館の他にも貴重なデータを揃えた資料室などもあります。何かを研究することは、他の人以上に豊富なデータにアクセスするということでもあります。

 玉石混交という言葉がありますが、ネットで出てくる情報はほとんどが「石」なのに対し、大学院にある資料は全てが「玉」。ゼミの先生に相談したりゼミの仲間と勉強したりすること、全てがリッチな情報へのアクセス権になるんです。そこから得られた経験は、自分の選択肢を圧倒的に広げてくれて、なおかつその選択肢のクオリティーは非常に高い。学部や大学院で、研究時に使う資料のアクセス方法を体感しながら学んだことは、本の執筆活動にも活きています。

○荻上チキ(おぎうえ・ちき)/1981年兵庫県生まれ。成城大学文芸学部国文学科卒業、東京大学大学院学際情報学府修了。評論家。メディア論を中心に、政治経済、社会問題、文化現象まで幅広く論じる。NPO法人ストップいじめ!ナビ代表理事。「荻上チキ・Session-22」(TBSラジオ)メインパーソナリティ。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)など。

構成/濱田ももこ(編集部)

※AERAムック『大学院・通信制大学2020』より抜粋