さて、QOの概要はこのくらいにしてこの制度の問題点に話題を戻そう。問題は大きく二つある。まずはここ数年はストーブリーグでのFA選手獲得の動きが極端に鈍くなっており、かつてなら早々に複数年契約がまとまるレベルの大物でさえ新天地を探すのが困難なケースが出てきたこと。この件については辣腕の代理人として知られるスコット・ボラス氏が球団オーナーたちの姿勢を非難するなど米国内でもかなり話題になった。
実際、2017年オフにはロイヤルズからのQOを拒否して移籍市場に出たマイク・ムスタカス三塁手がストーブリーグで大苦戦し、最終的にオープン戦も始まっていた18年3月になってロイヤルズに出戻った例もある。ちなみにムスタカスに提示されたQOでは年俸1740万ドルだったが、再契約時の契約は1年650万ドルと約1/3の額で買い叩かれた。
このムスタカスの事例が影響したか、昨オフにドジャースからQOを提示された柳賢振投手は、2018年の成績が故障のため15試合の先発で7勝どまりだったこともあり、QOを受け入れての残留を選択した。ちなみにムスタカスと柳の代理人はいずれも前述のボラス氏だ。
なおムスタカスは18年途中にロイヤルズからブリュワーズへトレード。これはロイヤルズの低迷もあるが、シーズン終了を待っていては何の見返りもなくFAとなってしまうため、半ば既定路線だった。
一方、今季の柳は現地7月5日時点で防御率1.73でナ・リーグトップ、10勝(2敗)も同1位タイと大活躍している。ロイヤルズと違ってプレーオフを見据えているドジャースがシーズン途中に柳を放出することはあり得ないため、今季中に相当有利な条件での複数年契約を引き出せる可能性が高まったとも言える。
少し話が逸れてしまったが、QOの問題点の二つ目を挙げよう。それは、QO拒否選手の獲得によって生じるドラフト指名権の譲渡が、毎年6月初めに行われるドラフト指名後ならば発生しないということだ。つまりシーズン序盤の2カ月を棒に振ることを承知するならば、球団側としてはドラフト後まで待ってから対象選手を獲得すれば、少なくともドラフト指名権に関するデメリットはなくなってしまう。これも大物の移籍先が決まらない一つの要因となっている。