がん免疫療法は一部の患者さんにしか効果が出ないため、患者さん自身にとっては自分に効果がでるのかどうかが何よりも重要です。そしてそれはもちろん、医者にとっても大切な課題になります。

 もし抗がん剤を投与する前に治療効果を予測できれば、必要のない副作用で苦しむこともありませんし、治療費もかかりません。なにより、次々と登場している抗がん剤の新薬を効率よく使うことができ、がんを克服できるチャンスが広がります。

 ですので、抗がん剤を投与する前に効果を予測する因子が大変重要になってきます。この効果予測因子のことをバイオマーカーと呼びます。

 2018年、ノーベル医学生理学賞はがん免疫療法の礎を築いた本庶佑(ほんじょ・たすく)先生が受賞されました。本庶先生はPD-1という分子を発見し、このPD-1の働きを抑えるオプジーボががん治療で効果を発揮することがわかりました。

 私が専門とする悪性黒色腫(ほくろのがんとも呼ばれ、別名をメラノーマといいます)は、オプジーボが効果を発揮します。

 がん免疫療法で用いる免疫チェックポイント阻害剤(オプジーボやキイトルーダ、ヤーボイなど)は一定の患者さんに効果を発揮します。悪性黒色腫では40%くらいの人に効果がでると言われています。

 目の前の患者さんが効果の出る4人に入るのかどうか、私を含めがん研究をしている人間はなんとしても知りたい課題です。

 そして、世界中で多くの優秀な研究者がこの難問に取り組み、少しずつ解明されつつあります。

 実際にオプジーボ(PD-1阻害剤)では、いくつかのバイオマーカーが報告されています。ここでは効果を予測するバイオマーカーとして三つ紹介したいと思います。

1.がん組織の中にキラーT細胞がいるかどうか(Nature.2014. 515(7528):568-71.)

 がん細胞を攻撃し排除する主役はリンパ球です。その中でも、キラーT細胞と呼ばれる細胞がメインプレーヤーです。がん組織の中で、最前線でがんと戦っているリンパ球を、腫瘍浸潤リンパ球(tumor infiltrating lymphocyte「TIL:ティル))といいます。このキラーT細胞がオプジーボなどのPD-1抗体の力を借りて活性化することでがんをより一層攻撃します。

 がん組織の中には、キラーT細胞が多い組織やほとんどいない組織があります。キラーT細胞が多く含まれるがんをHot tumor (熱い腫瘍)といい、キラーT細胞を含まないがんをCold tumor(冷たい腫瘍)といいます。もともと、キラーT細胞とがん細胞が最前線で熱い戦いを繰り広げているかどうか、そこにオプジーボの応援が来ればがんに対する治療効果があがるのは想像できるのではないでしょうか?

 がん組織の中にキラーT細胞が多くいる場合、オプジーボ(PD-1阻害剤)が効きやすいとされています。

 T細胞がいるかどうかは、通常の組織検査(H&E染色)でわかります(さらに正確に判定するには免疫染色が必要です)。しかし、どれくらいの数のT細胞がいれば確実にオプジーボの効果が出るのかまではわかっていません。まだまだ研究段階のバイオマーカーです。

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