伸宏さんは言います。

「頭に血が上って……、体が震えてくる感じです……」

 ほんの10秒程度のやり取りだけで、既に非常に高いストレスです。放っておくともっと続きますから、ストレスはさらに上がると考えられます。

 交流分析という心理学では、人は極限のストレスを感じたときにどう行動するのか、に対して、自殺、他殺、発狂(精神的におかしくなったり、精神疾患を発病したりする)の3つの出口があり、人それぞれ行きやすい出口があると考えます。妻を殺害してしまった事件の容疑者は、他殺という出口をとりやすい人だったのでしょう。

 字義通りの自殺、他殺に至ってしまうケースもありますが、実際にそこまではっきり行きつくケースは当然のことながら多くなく、例えば、酒に溺れて最初は社会的に自滅(自殺)、その後は肝硬変になって病死(無意識的な自殺)というようなケースや、失踪(もっと緩やかなら家出)というような形で、関係性の中で自分を消すというようなやり方もあります。

 伸宏さんは「精一杯やってきたけど、自分にはもう無理なのでもう消えたい」とも言っていたため、この3つでいえば自殺方向のように思えました。私は、彩花さんに言います。

「伸宏さんは、こんな状態なので、論理的に話すことはできませんよね?」

 彩花さんは

「そうなんです。この人は理系で、私より学歴が高いのに、こんなに非論理的になってしまうというのは、この人に何か問題があるんでしょうか?」

 私は「伸宏さんは、こんな状態なので、論理的に話すことはできませんよね?」と繰り返します。

 彩花さんは、

「だから、うまくいかないんです。どうしたら、この人が論理的に話してくれるのでしょうか?」

 私は、もう一度繰り返します。

「伸宏さんは、こんな状態なので、論理的に話すことはできませんよね?」

 彩花さんは、

「はい、夫婦を続けていく意思があるのなら、この人もちゃんと話せるようになってくれないと……」

と言い出しました。

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