感染症は微生物が起こす病気である。そして、ワインや日本酒などのアルコールは、微生物が発酵によって作り出す飲み物である。両者の共通項は、とても多いのだ。
感染症を専門とする医師であり、健康に関するプロであると同時に、日本ソムリエ協会認定のシニア・ワイン・エキスパートでもある岩田健太郎先生が「ワインと健康の関係」について解説したこの連載が本になりました!『ワインは毒か、薬か。』(朝日新聞出版)カバーは『もやしもん』で大人気の漫画家、石川雅之先生の書き下ろしで、4Pの漫画も収録しています。
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日本酒など、和の発酵食品で特に有名なAspergillus oryzae。A. oryzaeはカビ毒のアフラトキシンを作るA. flavusと形態的にはまったく同じで、ゲノムのホモロジーも100%近い。
遺伝子の数は約1万2千ある。
Saccharomyces cerevisiaeの遺伝子数は6千しかないから、A. oryzaeはずっとたくさんの遺伝子を持っていることになる。A. oryzaeにはアフラトキシン合成遺伝子クラスターのプロモータ領域(あたまのところ)に変異があり、アフラトキシンを作れない。だから、日本酒造りが可能になったわけで神の采配か、と思わず思ってしまう。
■胃が弱かった夏目漱石は死因も胃潰瘍による消化管出血
デンプンの糖化を行うのは酵素だ。これをアミラーゼといい、フランスのアンセルム・ペイアンとジャン・ペルソ−が麦芽から取り出した。
当初はジアスターゼと呼ばれていた。ギリシャ語で「切り離す」という意味だ。日本の高峰譲吉(1854-1922)は麹菌からジアスターゼを抽出し、これをタカヂアスターゼと命名した。
「発酵」という観点での糖化は、高峰の発見ということになる。アミラーゼ=ジアスターゼは人間も分泌している消化酵素だ。膵臓からも分泌され、膵炎になったときにアミラーゼの血中濃度が上昇するため、ぼくら医者はもっぱら膵炎(など)の診断に用いる。