自身の作品もモノクロで発表することが多いが、毎回、紙選びは徹底的に行っている。どの用紙が作品に合うのか何種類もテストして本番印刷に挑んでいる。それでも、展示会場では反省の日々。撮影も仕上げも用紙選択も明確なゴールはないのは承知だが、可能性という点で「最善の策」があったのではないかと思ってしまうのだ。なるべく後悔をしないために日ごろから多くの人の展示や写真集を見たり、プリンターメーカーや用紙メーカーのショールームに顔を出したり、イベントをのぞいて学んでいる。

■モノクロと向き合えば 写真の世界が広がる

 個人的には写真表現上、カラー、モノクロの垣根はないと考えている。モノクロで面白いものはカラーにしても面白く、その逆も成り立つと信じている。昨今のAI(ディープラーニング)技術の発展は目覚ましく、モノクロ写真に色づけすることも可能になった。100年以上前のモノクロ写真がカラー復元されたり、戦争を記録したモノクロ映像がカラー化(自分が見たのはノモンハン事件)されたりしているが、色づけされることで想像の世界から現実に起こったこととしてより鮮明に事象をとらえることができる。

 デジタルカメラでモノクロ作品を発表する場合、撮影は必ずカラーで行っている。これは単純に情報量の多さからそうしているのである。情報量が多ければ、モノクロ化したときに滑らかな階調が出せる。仕上がり設定「モノクロ」でJPEGのみでの記録だと情報量に乏しく、理想の着地ができないのだ。本格的にモノクロを学びたい人は、RAWも同時記録しておいたほうが損はないだろう。

 モノクロと向き合えば、写真の世界が広がる。被写体との向き合い方が変わる。カラーしか撮影しない人も、モノクロの基本を身につければ、作品制作において役立つことも多いだろう。

写真・文:清水哲朗

アサヒカメラ2019年5月号より抜粋