さて、ここまでは主にメジャーリーグから日本プロ野球への導入の是非について述べてきた。では逆に日本からメジャーリーグへ伝播するものはあるだろうか。制度面に限って言えば、恐らくはないだろう。これは権限が強いため新たな提案をしやすく、任期中に実績を築くことに意欲的な人物の多いメジャーリーグのコミッショナーに対し、財界人や官僚OBらが就くことがほとんどの日本プロ野球のコミッショナーは、権限こそあれど前例踏襲型の無難な運営を志向しがちだからだ。こうした土壌では、革新的な意見はあまり望めない。
だが現場レベルの戦術や選手個々のスキルなどなら、日本がアメリカに勝るものも多い。日本のプロ野球を経験した外国人投手がコントロールの磨き方や細かいボールの出し入れなどの技術を習得し、帰国後にメジャーで活躍した例もある。パイレーツでプレーした経験を持つ桑田真澄氏は、日本の捕手のキャッチング技術がメジャーの捕手に影響を与えているとも語っていた。
また、大谷翔平(エンゼルス)のメジャー移籍に際しては、メジャーでは5人で組むことが一般的な先発ローテーションを日本と同じ6人で組むのもいいのでは、という議論がアメリカで起こった。実際のところ、メジャーで「先発6人ローテ」は定着していないが、こうした日本ならではの戦い方にはメジャーリーグも興味を示しているという一例だった。
革新・発展という面では一歩も二歩も先を行くメジャーリーグに日本のプロ野球が追随するという流れは、今後も変わらないだろう。だがそれらの改革が日本にとって有益なのか、本当に必要なのかはしっかり考えていく必要がある。
さらに言えば、そもそもオープナーやチーム編成論のマネーボールなどは、持たざる者が頭を捻って絞り出したアイデアだ。メジャーリーグに比べて日本はあれがない、これが足りないというだけでなく、「これはいいじゃないか」とメジャーリーグが日本独自のものを真似る流れを作るくらいの気概を持ち、イチローの言うように頭を使う野球を磨いていってもらいたい。(文・杉山貴宏)