1970年代からロックバンド「ポリス」のベーシスト兼ボーカルとして活躍し、現在も“現役バリバリ”のミュージシャンとして活動するスティング。常に新たな音楽の可能性を模索するスタイルは今も健在で、2018年に発表した『44/876』では、グラミー賞のベスト・レゲエ・アルバムを受賞し、5月24日には、セルフカヴァーアルバム『マイ・ソングス』をリリースする。彼の原点にあるものとは何か。ロック界の“生ける伝説”に、音楽ライターの大友博氏が聞いた。
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マンハッタンを拠点に、ひさびさにロック・フォーマットによる創作に真正面から取り組んだ『57th & 9th / ニューヨーク9番街57丁目』、ジャマイカ出身のアーティスト、シャギーと共作した『44 / 876』と、たてつづけに力の入ったアルバムを発表し(前者は2016年秋、後者は18年春)、並行して精力的にツアーも展開してきたスティングから、また、じつに興味深い内容の作品が届けられた。タイトルは『MY SONGS / マイ・ソングス』。同タイトルの世界ツアーも間もなくスタートする予定で、今年10月には68回目の誕生日を迎えることとなる英国人音楽家は、まだまだやる気満々のようだ。
アルバム『マイ・ソングス』には、1970年代半ばから90年代半ばにかけてスティングが書き、サウンドやリズムの方向性を練り上げ、そしてあの声で歌い上げてきた15曲(ボーナス・トラックは除く)が収められている。ポリス時代の「孤独のメッセージ」「見つめていたい」、ソロになってからの「セット・ゼム・フリー」「フラジャイル」「イングリッシュマン・イン・ニューヨーク」「シェイプ・オブ・マイ・ハート」など、名曲ばかりだが、ただしこれは一般的な意味でのベスト・アルバムではない。過去の作品をすべて新たに録音してしまう、いわゆるセルフ・カヴァー・アルバムともちょっと違う。その手触りの違いのようなものは、オープニング・トラックで、すでにネット上に公開されている「ブラン・ニュー・デイ2019」を耳にすれば、すぐに感じとれるはずだ。では、いったいどんなコンセプトでまとめられた作品集なのか?