シェルターでの初めての夜。上の子は押入れにこもり、「勝手にこんなところに来て、またママが怒られる」と泣いた。家では、夜が怖かった。酒に酔った夫が帰ってくる前に、子どもたちを寝かせなければいけない。「カチャ」と鍵が開く音が聞こえると、全身が凍った。寝ている子どもたちを起こさないようにしていたつもりだったが、緊張感が伝わっていたのか、上の子は10円ハゲができ、3歳下の子は小学生になってもおねしょが続いていた。

 安全な場所で眠るのは何年ぶりだろう。朝起きると、ぐっすり眠れたという感覚が嬉しかった。下の子はその日からパタリとおねしょをしなくなった。

 3日後から外出許可が出て、娘たちと公園に行った。

 家では夫が自分の目の届かないところに家族を行かせるのを嫌がり、子どもが友だちと遊びに行くのを許さなかったり、遊んでいる公園の周りを車でうろついたりしていた。門限から2、3分遅れただけで激昂し、年齢が上がるにつれて正しいことを主張するようになった上の子を毛嫌いして、平手打ちした。

「どこに行くの?って聞かれないで、何も気にしないで外に行けるって楽しいね」

 ふと娘と交わした会話で、それほど自由が無かったのだと気が付いた。

 母娘がシェルターで暮らしたのは、次の住居に移るまでの3週間弱。その間にそれぞれ精神科医の診療やカウンセリングを受け、子どもたちは希望すれば学校のように集まって勉強することもでき、自由に遊べるスペースもあった。季節のイベントにみんなで参加したり、それに合わせた手作りの料理も出た。掃除当番などの役割が与えられ、徐々に日常を取り戻していった。

「とにかくご飯が美味しくて、家族だけで入る大浴場のお風呂もすごく楽しかった。寝る、食べる、お風呂に入るということがこんなに大事なんだと実感しました。私はシェルターに来たから、普通の感覚に戻るとができたんだと思います」

 と紀子さんは言う。

■初めての“暴力” 医師「通報しますか?」

暮らしとモノ班 for promotion
大人のリカちゃん遊び「リカ活」が人気!ついにポージング自由自在なモデルも
次のページ
「フットワーク軽く楽しい人」だった夫への違和感